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Review: Seyyed Reza Mir-Karimi (dir.): Yek Habe Ghand 『花嫁と角砂糖』 (映画); Abdellatif Abdelhamid (dir.): Ma Yatlubuhu al-Musstamiun 『ラジオのリクエスト』 (映画); Nosir Saidov (dir.): Qiyami roz 『トゥルー・ヌーン』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2018/03/25

去年に続いて3回目の開催となったイスラーム映画祭。 去年見たレバノン映画 Et maintenant, on va où ? 『私たちはどこに行くの?』がとても楽しめたので [鑑賞メモ]、 今年も渋谷ユーロスペースで春分の日の午後、と、翌平日の晩を使って3本観てきました。

Yek Habe Ghand [A Cube of Sugar]
『花嫁と角砂糖』
2011 / (Iran) / 114min / color.
Director: Seyyed Reza Mir-Karimi

イランの映画監督による同時代のイランを舞台とした映画です。 5人姉妹の末っ子 Pasandideh の婚前式 (結婚式?) の前日と当日朝に伯父が喉を詰まらせて死んだことによって葬式となった2日間を描いた映画です。 結婚する Pasandideh が主役とも言えますが、控えめな彼女は目立つことはなく、むしろしき集まった親戚たちの様子を描いた映画でした。 イランの冠婚葬祭の婚と葬を一気に疑似体験するよう。 婚約相手の男性が海外 (アメリカ?) 在住のため不在で、連絡取るためのスマートフォンやノートPCも出てきますが、 地方都市の比較的伝統的な生活をしているイランの人々の様子を垣間見る面白さがありました。 もちろん服装、料理、音楽などのディテールは異なるのですが、自分が子供の頃の、お盆などに父方や母方の実家で親戚一同が会したときの事を思い出させられました。 スーパー16mmで撮影されたという映像もソフトフォーカスのようでコントラストも弱め 色彩が綺麗で優しい画面も、風刺や皮肉も控えめで優しい話運びに合っているように感じました。

Ma Yatlubuhu al-Musstamiun [At Our Listeners’ Request]
『ラジオのリクエスト』
2003 / (Syria) / 89min / color.
Director: Abdellatif Abdelhamid

シリアの映画監督によるコメディ映画です。 内戦前の2003年の映画ですが、物語はさらに遡って1970年代頭。地中海沿岸の街タルトゥースに近い山間の農村が舞台で、 農場主の持つラジオを集まってリクエストでかかる音楽を皆で聴くのが楽しみとしている、という設定も、少々ノスタルジック。 ビジネスライクではなく慈善意識高い農場主という設定にもひと時代前に感じられました。 そんなの農場主の息子 Jamal と近くに住むヒロイン Azize の恋や、隣の農場の使用人の恋などを絡めつつ、 さほど毒の無いほのぼのとしたコメディが続きます。 演技や照明が不自然に感じられることが多く、画面の作りもあまり好みではなかったのですが、 コメディだと思えばあまり気になりませんでした。 しかし、農場主の息子は兵役に取られ、やがて第四次中東戦争 (1973) となります。 ほのぼのとした画面は一変、激しい戦闘シーンとなり、故郷の村に棺桶で帰る場面でこの映画は終わります。 20世紀半ばの平和で牧歌的な時代のシリアはこの戦争で終わってしまった、そんなことを感じさせるような映画でもありました。

Qiyami roz [True Noon]
『トゥルー・ヌーン』
2009 / (Tajikistan) / 83min / color.
Director: Nosir Saidov

ソ連崩壊後、タジキスタンで初めて制作された映画とのこと。 舞台はソ連崩壊直後のおそらくフェルガナ盆地と思われる山間の村。 村の外の高台にある測候所に働く初老のロシア人 Kirill と、そこで助手として働く村の娘 Nilufar が主人公です。 Kirill は Nilufar に仕事の後を継がせて家族の待つロシアへ帰るつもりだけれども、無線連絡も郵便も途絶えがちで、本部との意思疎通もままならないという。 Nilufar は相愛だった下の村の男性との結婚することになっているが、結婚式の直前になって、突然、下の村の間に (おそらくタジキスタンとウズベキスタンとの間の) 国境が引かれて、有刺鉄線や地雷で封鎖されてしまうという。 その後、紆余曲折ありつつ、上の村での結婚式にこぎ着けるが、下の村に花嫁を送り届ける行列が国境を越える時、 Kirill は地雷を踏んでしまい、行列を守りつつ死んでしまう、という話です。 本部との連絡途絶、突然封鎖される国境など、主人公や周囲の人々が置かれた状況は不条理なのですが、 少々感傷的ながら最後の死のあっけらかんとした描写も、不条理に対する諦観を感じるようでもありました。 救いの無い結末ですが、不条理を抑圧的に陰鬱に描がかず、それでも飄々とマイペースに生きる人々を、時にユーモラスに描いているよう。 そんな物語の展開の仕方 山間の風景や結婚式などを彩る民族衣装の人々も美しく、色彩豊かながら抑えた画面作りもとても好みでした。

ちなみに、この映画の音楽を手がけていたのは、タジキスタンのミュージシャン Daler Nazarov。 Bakhtiar Khudojnazarov: Luna Papa (1999) [鑑賞メモ] の音楽を手がけていた人です。 Luna Papa もソ連崩壊直後、内戦状態となったタジキスタンを舞台にした映画で、 その不条理な状況をユーモアを持ってファンタジックに描いていました。 Luna Papa ほど非現実的な描写はありませんでしたが、 不条理の扱い方などに似たところも感じた映画でした。 ちなみに Khudojnazarov もタジキスタン出身ですが、1993年以降2015年に亡くなるまでベルリン在住で、 Luna Papa もドイツなどによる国際共同制作映画ということになるようです。