“a contemporary dance piece in immersive virtual reality” 「没入型仮想現実におけるコンテンポラリーダンス作品」 と謳った作品を体験するイベントがあったので、 カンパニーや制作した団体に関する予備知識はありませんでしたが、どんな感じか体験してきました。 Gilles Jubin はスイス・ジュネーブを拠点にコンテンポラリーダンスの文脈で活動するダンサー・振付家で、 同じくジュネーブを拠点とするモーションキャプチャ技術を専門とする非営利団体 Artanim とのコラボレーションということです。
観客最大5人一組で体験する作品で、観客はヘッドマウントディスプレイとヘッドホンだけでなく、 手の甲と足の甲にマーカーを装着し、計算機を背中に背負って、没入型VRの世界で作品を体験します。 最近ではスマートフォンベースの簡易な没入型VRも普及してますが、少々物々しい機材を使っていました。 観客は席に座ってじっと鑑賞するのではなく、8 m × 5 mのスペースを動き回りながら鑑賞します。 モーションキャプチャで撮影したダンサーの動きがVRの世界の中でアバターの動きとして動くだけでなく、 観客のアバターもVR世界に登場し、鑑賞中の観客の動きもアバターの動きとなります。 ただし、ヘッドセットなどの制約もあって踊るような動きは難しく、また、VR中のダンサーとインタラクションすることは無いため、あくまで傍観者という感じです。
始まりは晶洞 (ジオード) の中のような空間。 何者かが晶洞の覆いを取り除くと、半砂漠のような風景の中で見上げるような巨人たちに取り囲まれます。 やがて、大きなガラス窓を持つモダニズム様式の住宅が被せられ、その室内や窓の外でダンスが繰り広げられます。 この時のダンサーは等身大で、次いで、指先程の小人のようなダンサーが踊るのを見ることになります。 最後は周囲は街中にある広めの公園の中のような場所になり、公園のあちこちで等身大のダンサーが踊るのを見る事になります。 やがて、最初に出てきた巨人たちが現れ、晶洞を被されて、作品は終わります。
2ヶ月前に Digital Choc 2019 でもVR作品を体験していたので [鑑賞メモ]、 アバターや周囲の空間に作家性の高い「絵」が用いられず、 FPS (First Person Shooting) / TPS (Third Person Shooting) で用いられるような 比較的リアリズム寄りの表現だったことは物足りなく感じましたが、 ダンス的な人の動きに焦点を当てるという点ではこれも妥当な選択でしょうか。 感情を発露するというより空間に描くような動きのダンスはVRと相性も良く、 そして、鑑賞者とダンサーのスケールを相対的に変えて見せるという所にVRならではの面白さがありました。
しかし、VR_I より惹かれたのは、 会場の一角で液晶ディスプレイ上映されていた Cie Gilles Juban の3Dダンス映像作品 Womb。
狭い空間の中、女性1名、男性2名のダンサーが空間バズルを解くが如く踊るのですが、 3D映像とすることで狭い空間の中の立体的な位置関係が際立って面白く感じました。 この狭い空間は子宮 “Womb” を暗喩していたようですが、それはさほど感じられず、 むしろ、第二次大戦後20世紀中盤のモダンデザインを思わせるカラフルな舞台美術と衣装。それも好みでした。 音楽は The Young Gods の Franz Treichler ですが、いわゆる Industrial / EBM な音ではなく、グリッチ音を多用した Electronica。 観ている途中、20歳前後の女性二人組がやってきて「プチプチいう音が気持ち悪い」と言って去っていったのに、妙にウケてしまいました。
この2作品を観た後に、表参道を原宿方面へ移動。この展覧会を観てきました。
ベネズエラ生まれでパリを主な拠点に活動した、20世紀後半のキネティック・アートの文脈で知られる作家です。 細いPVC (塩化ビニール) チューブを沢山垂らした中を掻き分け歩いて体験するインスタレーション Pénétrable を最初に制作したのは1967年だそうですが、 この青い作品は1999年の自身の回顧展のために制作したものとのこと。 シンプルながら、ビジュアルが美しくミニマリスティック。 観客の楽しみ方も多様で、やっぱり良い作品です。
以前、Comme des Garçons 青山店で Pénétrable を体験したのはいつだったか、と思ったら、1996年だった [鑑賞メモ]。 もはや四半世紀近く前。時間が経つのは早いものです。