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Review: Anne Teresa De Keersmaeker, Jean-Guihen Queyras / Rosas: Mitten wir im Leben sind / Bach6Cellosuiten @ 東京芸術劇場 プレイハウス (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2019/05/19
Anne Teresa De Keersmaeker, Jean-Guihen Queyras / Rosas
東京芸術劇場 プレイハウス
2019/05/18, 15:00-17:10.
Choreography: Anne Teresa De Keersmaeker
Cello: Jean-Guihen Queyras
Created with and danced by Boštjan Antončič, Anne Teresa De Keersmaeker, Marie Goudot, Julien Monty, Michaël Pomero
Johann Sebastian Bach: 6 Cello Suites, BWV 1007 to 1012
Costumes: An D'Huys; Dramaturgy: Jan Vandenhouwe; Sound: Alban Moraud; Lighting design: Luc Schaltin.
Production: Rosas.
World Premiere: 26 August 2017, Ruhrtriennale.

ベルギーのダンスカンパニー Rosas の2年ぶりの日本公演は2演目は バロックの名曲 J. S. Bach: Cello Suites, BWV 1007-1012 全6曲で踊る約二時間の作品。 Anne Teresa De Keersmaeker 自身も含めて5人のダンサーで踊る作品ですが、 独奏曲なので A Love Supreme [鑑賞メモ] のようにパート毎にダンサーを割り当てるのではなく、 曲毎にダンサーを割り当てるような作品でした。

舞台は cello 奏者の座る丸椅子に、舞台下手に床マーキング用のビニールテープが用意されているだけの、幕も美術も無い剥き出しの舞台で、 照明も4曲目までは白いフラットなダウンライトで舞台全体を照らすという、ミニマリスティックな演出。 曲間に床にビニールテープで目印らしきものをマーキングしている所を見せ (席からはどのような図形を描いていたのか見えませんでした)、 各曲の初めに Keersmaeker が舞台前方で客席に1から6の何曲目かを指で示し、後ろの壁にこれから演奏される曲の BWV (J. S. Bach の作品目録) 番号が控えめの白文字で投影した後、 cello の生演奏に合わせてダンスを踊るというという構成でした。

最初の4曲 (BWV 1007-1010) では、曲毎に Michaël Pomelo, Julien Monty, Marie Goudot, Boštjan Antončič の順で踊っていきます。 基本的にソロでですが、途中で Keersmaeker が出てきて、 両手を合わせて突き出すような動き、腕を小さく振りながら小刻みに跳ねるような動きなど、 全曲に共通するような主題とでもいうダンスを示すように踊ります。 全て同じダンスを踊るわけでなく、位置関係を変えたりと、曲毎に変奏されていく部分もあります。 4曲目以外では2人は組むことはなく距離を保ちつつ、しかし、完全に独立というほどでも無く。 最初の Pomelo はジャンプ多めのダイナミックな動きに感じましたが、 続く Monty、Goudot と Rosas らしい性別を感じさせない精緻な動き。 しかし、4人目の Antončič はのたうち回るような動き。それも、曲が終わった後も無音の中でフロアを転げ回り5曲目 (BWV 1011) が始まるまで息を切らせて倒れ込んでいました。 こういう演出は Rosas ではしては珍しいな、と。

5曲目の頭少し Antončič が絡んだ後は、ダンス無しの cello のソロ。 照明も闇に沈んだ舞台の中で cello を弾く Queyras に下手横からスポットライトを当てるようなもの。 そのまま演奏だけかと思いきや、4曲目までと同様に途中から Keersmaeker が出てきて、 ソロで4曲目までで見せたようなダンスを踊り出しました。 半ば闇の中のダンスですが、4曲目までの反復もあって気配だけでも見えるよう。 時々ライトの中に浮かび上がる Keersmaeker の踊る姿も美しく、 ここを見せるために、4曲目までがあったのかと思うほどでした。

そして最後の6曲目 (BWV 1012) は5人揃っての大団円。照明は多少の変化はあるものの舞台全体を照らすフラット気味なものに戻り、 並んで歩いたり、渦巻くように走ったりと、Rosas らしいフォーメーションも交えつつ、 ダンサー全員が床に伏せた状態で cello の演奏を聴かせるような場面も印象に残りました。

Queyras は6曲目こそ舞台奥中央で演奏しましたが、他は舞台の中程で曲毎に椅子の位置と向きを変えて演奏しました。 4曲目以降、途中で演奏を中断して無音でダンサーに踊らせるような場面もあった程度で、 生演奏といってもダンサーに合わせた即興的な演奏も無く、 動き回ったり (一回、曲の途中で向きを変えた程度)、ダンサーが絡んだりすることも無く、端正な演奏。 しかし、背後にダンサーが回った時以外ずっとダンサーを見て演奏していたのも印象的。 音楽をダンスで可視化しているのでは無く、ダンスを楽譜に演奏しているように錯覚するようでもありました。

Jean-Guihen Queyras は Baroque から現代音楽までレパートリーの広い cello 奏者です。 フランスの現代音楽のアンサンブル Ensemble InterContemporain の一員としてだけでなく、 Thrace: Sunday Morning Sessions (Harmonia Mundi / Latitudes, HMC 902242, 2016, CD) [鑑賞メモ] のような録音も残しています。 彼の生演奏を聴くことも、この公演の楽しみでしたし、期待に違わず楽しむことができました。 しかし、Thrace: Sunday Morning Sessions の編成や、 もしくは現代音楽メインのプログラムのコンサートで、Queyras の演奏を聴いてみたいものです。