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Review: Jean-Guihen Queyras, Sokratis Sinopoulos, Bijan Chemirani, Keyvan Chemirani: Thrace: Sunday Morning Sessions
2017/02/12
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Jean-Guihen Queyras, Sokratis Sinopoulos, Bijan Chemirani, Keyvan Chemirani
Thrace: Sunday Morning Sessions
(Harmonia Mundi / Latitudes, HMC 902242, 2016, CD)
1)Khamse 2)Nihavent Semai 3)Sacher Variation 4)Zarbi é Shustari 5)Visite nocturne 6)I would I were a bird 7)Sunday morning 8)Dast é Kyan 9)Étude Digitale 10)Hasapiko 11)Karsilama 12)Dance in 7/8
Enregistrement septembre - octobre 2015.
Jean-Guihen Queyras (cello), Sokratis Sinopoulos (lyra), Bijan Chemirani (zarb, daf), Keyvan Chemirani (zarb, daf).

イラン出身のペルシャ古典音楽の打楽器奏者 Djamchid Chemirani を父とし、 フランスで生まれ育った兄弟 Keyvan & Bijan。 父との Chemirani Trio としてペルシャ古典の打楽器アンサンブルの活動をするだけでなく、 jazz や world music の文脈で様々な共演をしてきている [関連レビュー]。 このCDに収められたセッションは、classical の cello 奏者 Jean-Guihen Queyras と、 ギリシャの民族楽器 lyra の奏者 Sokratis Sinopoulos の4人によるセッション。 Queyras は、ケベック出身ながら Pierre Bourez によって設立されたフランスの現代音楽のアンサンブル Ensemble InterContemporain での活動で知られ、 Harmonia Mundi から現代音楽だけでなく幅広く classical のCDをリリースしている。 Sinopoulos は、Ross Daly のグループ Labyrinth のメンバーとして folk の文脈で活動を始め、 最近は Eight Winds (ECM, ECM 2407, 2015, CD) をリリースするなど、jazz 寄りの活動も多い。

演奏しているのは、東地中海の伝統的な音楽、即興から、現代の作曲家の音楽まで。 アルバムのテーマは「トラキア」ということで、バルカン半島南部のトラキアの伝統的な音楽を多く取り上げている。 Keyvan & Bijan Chemirani の一連の東地中海音楽プロジェクト [関連レビュー] に近い雰囲気を持つアルバムだが、 歌がフィーチャーされておらず、lyra のような伝統的な楽器に比べ澄んだ音色の cello が入ったこと、 そして、現代音楽も交えて、音数を絞って楽器の音の響きを生かしたプロダクションもあって、 明るいながらも落ち着きの増した音世界になっている。 特に、アラブの伝統的な曲を cello と zarb のデュオで演奏した “Visite nocturne”、 伝統的な曲を cello と lyra のデュオで演奏した “I would I were a bird” など、 今までの Chemirani のプロジェクトには無かった美しさ。 バルカンならではの複合拍子ダンス曲を演奏した “Hasapiko”、“Karşılama” そして “Dance in 7/8” にしても、優雅さが増している。 Chemirani の一連の東地中海音楽プロジェクトのパレットに classical という色が新たに加わった、そんなアルバムだ。

ちなみに、Chemirani 兄弟と Queyras という異なるジャンルのミュージシャンのどこに接点があったのかと思いきや、 ライナーノーツにある Queyras の言葉によると、子供時代の遊び友達で、一緒にサッカーをして遊んだりした仲とのこと。 そんな経緯も、コンセプト先行のプロジェクトとは違ったリラックスしたセッションと感じる一因かもしれない。

このアルバムをリリースした Harmonia Mundi の Latitudes シリーズは、まだ4タイトルのリリースしかないが、 去年リリースした Kayhan Kalhor, Aynur, Salman Gambarov, Cemîl Qoçgirî Hawniyaz (Harmonia Mundi / Lattitudes, HMC905277, 2016, CD) も素晴らしかった [レビュー]。 ECM の音作りに近い classsical 寄りの world music のシリーズとして今後のリリースを期待したい。