2017年に Met Live in HD で観たドイツの演出家 Willy Decker のプロダクションによる La Traviata のそのミニマリスティックで象徴的な演出が とても好みだったので、 その Decker 演出オペラの上演を生で観る良い機会と、足を運んでみました。 上演したのは、20世紀初頭、というか、いわゆる「世紀末芸術」の典型的な作品とも言える Oscar Wilde 原作 Richard Strauss 作曲の一幕もののオペラ Salome です。 Richard Strauss のオペラを観るのは、 Elektra (1909) [鑑賞メモ]、 Der Rosenkavalier (1911) [鑑賞メモ] に続いてとなります。 Salome は Aubrey Beardsley の挿絵も有名ですし、 Morrissey (ex-The Smiths) が Oscar Wilde が好きという有名な逸話もありますし、 一度ちゃんと観て (聴いて) おく良い機会、というのもありました。
舞台美術は、少し歪んだ左右の大壁と裂け目のある大階段のみ。 裂け目の上手側が少し落ち込んでいて、裂け目の中が Jonachaan が捕らえられている地下室として使われました。 俳優陣も Jonachaan を除いて、没個性的なの衣装で丸刈りでとなって、記号のよう。 階段の上下の使い分けや、裂けた左側の落ち込んだ側だけ明るくしたりと、抽象的でシンボリックに、階段上の立ち位置や距離感に意味を持たせる演出が楽しめました。 階段の下段の方で Jonachaan を Salome が誘惑させつつ、 上段の方で Narraboth がそのやりとりを遠くから見下ろしつつ身悶え自殺する場面など、秀逸でした。 有名な “Dance of the Seven Veils” の場面をどのように抽象的に表現するのかというのも興味があったのですが、 この場面はダンスではなく階段いっぱい使って Salome が Herodes を誘惑したり突き放しつつじゃれ回るようなマイム芝居でした。 ラストは Salome が Jonachaan の傍で自殺するよう改変されていて、 男性の愛し方を知ることができなかった女性の悲劇のような印象を残しました。
主要な役を含めて日本人のみでのオペラ上演を観たのは、これが初めて。 Willy Decker の演出もそうですが、 DVD や Met Live in HD などで観ている現代演出のオペラは、オペラ歌手に歌唱力だけでなく演技力、身体能力が要求するもので、 それがどうなるのかという興味もありました。 この作品のタイトル役も大階段を駆け巡りながらの熱演で、なかなか素晴らしいものでした。 日本のオペラ団体もこういう演出がちゃんとこなせることがわかったのも収穫でした。