記憶をテーマとしたインスタレーションを得意とするフランスの現代美術作家 Christian Boltanksi の回顧展です。
美術館規模の個展としては2016年に東京都庭園美術館でもありましたが [鑑賞メモ]、こちらは2010年代の作品が中心。
初期の映像作品から、1990年前後の慰霊のモニュメントを思わせる立体作品を経て、近年の大規模にインスタレーションまで、
Boltanski の歩みを一通りたどることができる大規模な回顧展でした。
最初期にあたる1969年の映像作品や1970-71年のオブジェや写真の作品など、のちの表現の原点を見る興味深さはありましたが、
やはり最も印象を残したのは「モニュメント」“Monument”、「保存室」“Réserve”、「聖遺物箱」“Reliquaire”、「祭壇」“Autel” などと名付けられた1990年前後の作品。
曰くありげに積み上げられた古びた箱などの上に新聞の訃報欄などにあるような粗い白黒のポートレイトを遺影のごとく拡大して載せて薄暗いアームライトで浮かび上がらせるような作品です。
まるで霊安室か集合墓地の祭壇のような少々不気味ながら厳かな印象も受ける作品です。
ホロコーストの記録と結び付けられている、という、印象を持っていたのですが、
新聞の死亡欄から取られた一般の人の普通の死なども題材となっている作品もあり、
広く死の記憶をテーマにしていたと認識できたのは収穫でした。
現代美術の企画展などで同様の作品は観たことは少なからずありましたが、
20 m × 10 m はあろうギャラリーにずらりと並べられたのを観るのは初めて。
まるで、Boltanski 流の礼拝堂。
残念ながら見逃してしまった1990年の水戸芸術館での個展はこんな感じだったのだろうか、
ということも思いつつ、場の雰囲気を味わうことができました。
後半は2010年以降その制作の中心となる大規模なインスタレーション作品。
2016年の東京都庭園美術館のタイトル作品でもある
Aminitas のヴァリエーションや、
視線を遮らず天井近くの上方に下げられてはいましたが
半透明のカーテンを使った Les Spirits (2013)、
2012年の越後妻有トリエンナーレに出展された古着の山
No Man's Land [鑑賞メモ] も思い出す
Terril (2015) など、
いかにも彼らしいインスタレーションが楽しめました。
しかし、東京都庭園美術館で観た時も感じたことなのですが、
半ば廃墟ががった古い建築物でのインスタレーションだから雰囲気があって良いのであって、
綺麗な美術館ギャラリーだと少々薄っぺらく感じてしまう所もありました。
国立新美術館での回顧展に合わせて、表参道の Espace Louis Vuitton Tokyo でも展覧会が開催されています。
展示は Aminitas のヴァリエーションの2作で、
一つは2016年の東京都庭園美術館 [鑑賞メモ] でも展示されていた豊島の
Aminitas (La Forêt des Murmures), Japan (2016)。
もう一つは、Aminitas (Mères Mortes), Dead Sea, Israel (2017)。
スクリーンを背中合わせにするか、向かい合わせにするかという違いはありますが、
ギャラリーに干藁を敷き詰め緑の林と砂漠の映像を組み合わせるインスタレーションは、東京都庭園美術館 での展示を思わせました。
しかし、そんな展示コンセプトは他所に、
猛暑の街中、表参道の喧騒をしばし忘れて、涼みながらゆったりと休憩というか瞑想することのできる、
そんな場所にもなっていました。
(2019/08/11 鑑賞; 2019/08/18 追記)