サイレント時代の Charles Chaplin の映画 City Lights 『街の灯』を、 1934年日本公開の前、アメリカでの映画公開と同年1931年に翻案した歌舞伎の再演です。 Charles Chaplin 生誕130年の企画の一つとして、 国立劇場の令和元年12月歌舞伎公演の二本立ての一つとして上演されましたが、 金曜とクリスマスの夜に “Chaplin Kabuki Night” として単独の公演も行われたので、夜の単独公演を観ました。
主人公のキャラクターを『与話情浮名横櫛』の登場人物 蝙蝠の安五郎 に置き換え、江戸下町の長屋を舞台として 世話物風 (1931年に作られた歌舞伎なので、世話物とも言い難い) に翻案されています。 台本は残っていますが、単独で公演する程ではないものの二本立てにするには長いということもあり、冗長な箇所を削り展開をテンポ良くしているとのこと。 1931年当時の再現上演ではありませんが、スーパー歌舞伎やコクーン歌舞伎のような現代的演出でもありません。 セリや廻し舞台など舞台機構を駆使し、宙釣り (ワイヤーアクション) もありましたが、世話物人情喜劇風にオーソドックスと感じる演出でした。
普通に違和感なく江戸長屋での人情喜劇になっていて、にも関わらず、随所で City Lights のあの場面だと思う所があり、 ストーリーは十分にわかっていても、最後は涙してしまいました。 それも、物語的な面だけでなく、スラップスティック喜劇的な面も翻案していたのは、さすが。 City Lights ではなく The Gold Rush が元ネタと思われるもの (パンのダンスを、お座敷の場面での鯛に箸を指してのダンスにしていた) もありましたが、 これは元の台本にはない演出ではないでしょうか。 舞台転換の間、竹本の義太夫による説明、描写に合わせ、仕草で物語を進めていく演出など、 弁士付きの無声映画と歌舞伎の連続性を感じました。 また、オリジナルの映画音楽のメロディを邦楽器で演奏して使ってましたが、 箏や三味線の音色で、間合いのある切れ切れの音で聴くと、違う曲のよう。
サイレント期の小津 安二郎の喜八ものの映画、例えば King Vidor: The Champ (1931) の翻案と言われる『出来ごころ』 (1933) [鑑賞メモ] や Josef von Sternberg: The Docks of New York (1928) の飜案とされる 水谷 八重子 主演、島津 保次郎 監督の初期トーキー映画 『上陸第一歩』 (1932) [鑑賞メモ] などを ふと思い出させられ、 これらと『蝙蝠の安さん』と同時代の試みだったんだな、と思いつつ、 当時のアメリカ映画の日本での受容と変容を見るようでもありました。