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Review: 島津 保次郎 (dir.) 『上陸第一歩』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2015/09/24

神保町シアター『松竹120周年記念 百花繚乱――昭和の映画女優たち』 で上映されたこの映画を観てきました。

『上陸第一歩』
1932 / 松竹蒲田 / 白黒 / 88 min.
監督: 島津 保次郎.
水谷 八重子 (港の女 さと), 岡 譲二 (火夫 坂田), 奈良 真養 (ブルジョワの政), 江川 宇礼雄 (プロペラのしげ), 河村 黎吉 (司厨長 野沢), 飯田 蝶子 (安宿のお神), 吉川 満子 (酒場のマダム), 沢 蘭子 (政の情婦), etc

あらすじ: 貨物船の釜焚き (火夫) 坂田は、港に着いてすぐ、波止場で身投げしようとした女 さとを救う。 坂田は事情を聞くこともなく、さとの面倒を見る。 その夜、坂田はさとを宿舎に置いて酒場 (チャブ屋) へ行くが、彼女も彼を追ってくる。 坂田と一緒にいる さと を酌婦と見て、スチュワード (司厨長) の野沢は彼女を買おうとするが、坂田は彼女を庇う。 さと と 坂田 が酒場を出ようとすると、ブルジョワの政が彼女を掴まえ、持ち主に返せと坂田へ言う。 坂田 は さと を庇って、政とその一味や野沢と乱闘して叩きのめしてしまう。 二人は酒場を出て、安宿へ行く。 坂田 は敵ではないと さと は覚り、自分の不幸な身の上話、そして、ブルジョワの政が自分を上海に売ろうとしていることを話す。 しかし、そんな過去の話は聞きたくない、今夜は気が立っているから寝た方がいい、と坂田は応える。 そして、さと にベッドをやり、坂田はソファで寝てしまう。 翌朝遅く、坂田が目を覚ますと、さと はなけなしの所持金で坂田のために朝食など買物を済ませていた。 二人で朝食しようとすると、倉庫番 戸村が司厨長の呼び出しを伝えに来る。 用事が済んだら戻ってきて乗船前に一緒に夕食を食べようと、さとは坂田へ言うが、 坂田は戻ると約束できないと応え、彼女が逃げるための金を渡して、宿を出て行ってしまう。 坂田が呼び出された工事現場へ行ってみると、司厨長は政の一味と待ち構えている。 ブルジョワの政が物陰から坂田をピストルで撃つが当たらず、再び坂田は全員を叩きのめしてしまう。 宿に戻った坂田を見て、さとは坂田に船を下りて一緒に所帯を持とうと言う。 しかし、そこに刑事が現れ、ブルジョワの政の殺人の嫌疑で勾引するという。 その気があるなら戻ってくるから待っていろと、坂田はさとに言い残し、刑事に連れられて行った。

『紐育の波止場』 (Josef von Sternberg (dir.): The Docks of New York, 1928) を翻案したという、港町を舞台にしたモダンな装いのメロドラマ。 島津 保次郎 のトーキー第一作ですが、 2年後の『隣りの八重ちゃん』 (松竹蒲田, 1934) [鑑賞メモ] と比べても、演技や演出はサイレントを思わせるもの。 主演女優の 水谷 八重子 の泣いたり不幸な身の上話をしたりする場面の演技は、『隣りの八重ちゃん』で浮き気味だった 岡田 嘉子 と同質のものですが、 この映画全体がサイレント的なせいか、しっくりはまっているように感じられました。

火夫が身投げした娼婦を助ける出会い、そして、勾引される火夫を娼婦が見送る終わりは、 『紐育の波止場』と『上陸第一歩』で同じですが、 中盤の話は大きく異なり、翻案したというより、着想したという程度。 ブルジョワの政のような登場人物は『上陸第一歩』オリジナルです。 『上陸第一歩』では、火夫には女にシャイな男、「港の女」には不幸なか弱い女という属性が付けられ、 そんな女を男が庇い助け、去る男に女がすがるような男女関係としています。 『紐育の波止場』は最底辺の男女の不器用なラブストーリーという感じですが、 『上陸一歩前』はぐっとウェットなメロドラマとなっていました。 こんな所に、当時の日本とアメリカの間の男女観の違いを見るようでした。

戦前期の水谷 八重子の動く姿を観るのは、 『寒椿』 (国活角筈, 1921) [鑑賞メモ] に続いて。この映画では、和装ながらパーマががったボブもモダンな装い。 酒場でのコート姿もきまっていて、若いときは美人だったんだなあ、と、つくづく。 相手の男優 岡 譲二 も、ボーダーシャツにパイプと、いかにもマドロスないでたち。 計算して動くようなことはしない素朴な強さを持つ人物設定にハマっていました。 ただ、火夫はわざとらしい笑い声は入れずに、もう少し寡黙にしてよかったのでは、と思ったりもしました。

この映画の前にもう一本、小津 安二郎 (dir.) 『非常線の女』 (松竹蒲田, 1933) [鑑賞メモ] をピアノ生伴奏を観たので、 計らずしも 岡 譲二 二本立てとなってしまいました。いい男優だったんだなあ、と。 こちらは以前にも観たことのある映画ということで、今回は特集に合わせて女優に注目して観たのですが、 田中 絹代 でも 水久保 澄子 でもなく、逢初 夢子 が中でもずば抜けて洋装が生える顔立ちスタイルだったのだなあ、と気付かされました。