COVID-19感染拡大のため閉館になっていた映画館も営業再開し始めています。 映画新作封切りが再開しているというほどではないのですが、 National Theatre Live や Royal Opera House cinema などは営業休止前に準備されていたものの延期になっていた作品の上映が始まっています。 というわけで、National Theatre Live でこの作品を観てきました。
移民船の名 Empire Windrush から Windrush Generation とも呼ばれる イギリスの西インド諸島系移民第一世代を巡る、第二次世界大戦中から戦後にかけての群像劇です。 ジャマイカ移民の主な登場人物は、 孤児ながらジャマイカで教師となり憧れるイギリスで教師になろうと渡る Hortense、 Hortense の従兄でイギリス空軍パイロットとなる「魔性の男」的な役回りの Michael、 法律家になることを夢見て二次大戦時にイギリス軍に志願し、戦後、Empire Windrush でイギリスに移民するため Hortense と偽装結婚する Gilbert の3人。 イギリス側の主な登場人物は、 イングランド中東部リンカンシャーの肉屋という実家の暮らしから逃れるように London に出てきた Queenie と、 ロンドンで Queenie と結婚する堅物銀行事務員 Bernard、 そして、一次大戦従軍時のシェルショックで失語症となった Bernard の父 Arthur。 中でも Hortense と Queenie の2人の物語を軸に、話が進みます。
群像劇で扱う時間も長い作品ですが、 テンポ良い脚本と廻り舞台やセリを駆使した場面転換、照明や映像を駆使した現代的ながらもわかりやすい演出でした。 2幕構成で第1幕は二次大戦中まで。 Hortense の幼少期の話や、Queenie がロンドンに出てきて結婚する経緯、 Queenie が Michael や Gilbert と知り合う経緯など、若干説明的に過ぎるように感じました。 しかし、第2幕、ロンドンに移民してきた Gilbert と Hortense の Queenie の家での借間暮らしでは、二人が直面する差別に物語は深刻な様相を示します。 しかし、前半からのユーモア (多分にイギリス的でしょうか) を交えた物語の進め方は変わらず。 そんなユーモアに笑いつつ、深刻な状況ながら心打たれる場面も少なからず、そんな時は目を潤ませながら、 約3時間半、その物語の世界に入り込んで観ることができました。
1980年代からずっと reggae (特に1950年代の pre-ska 期から1980年代の UK reggae や early dancehall) を好んで聴いていたこともあり、 この作品を観てみようと思った一番の理由は、やはり、 音楽コンサルタントとして Gary Crosby が参加しており、音楽演奏に Jazz Jamaica Allstars を起用していたから。 Honest Jon's による音楽のコンピレーション・シリーズ London Is The Place For Me で聴かれるような Mento や Calypso に彩られた音楽劇的な面を期待していたところもありました。 (以前に Rufus Norris 演出で観たのが The Threepenny Opera だったというのもありますが。) 確かにそれなりに使われており、ミュージカル的なダンスシーンなども楽しめましたが、 特に深刻な場面では London String Groups によるストリングスによる映画的な音楽が使われることが多く、 むしろそちらの方が印象に残ってしまい、少々肩透かしでした。 しかし、特に第2幕の物語は、 London Is The Place For Me 第1集、第2集のジャケット写真の向こうにあると物語の変奏のよう。そんな面を興味深く観ることができた舞台でもありました。 クレジットによると舞台で使われていた当時の映像の中には British Pathé のものも使われていたようですが、 British Pathé による Empire Windrush や1950年代の移民問題のニュース映像は DVD Mirror to the Soul: A Documentary film about British Pathé in the Caribbean 1920-1972 (Soul Jazz, 2012) で観ることができます [鑑賞メモ]。 しかし、フィクションとはいえこういう舞台作品を通して見ると、問題をいっそう身近に感じられます。