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Review: 『ヨコハマトリエンナーレ2020 光の破片をつかまえる』 @ 横浜美術館 / プロット48 他 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2020/07/25
横浜美術館 / プロット48 他
2020/07/17-2020/10/11 (休場日: 木曜日; 除 7/23, 8/13, 10/8), 10:00-18:00 (10/2,3,8,9,10 10:00-21:00).
Artistic Director: Raqs Media Collective

COVID-19パンデミックで大規模な国際美術展の開催が困難な状況となっていますが、 そんな中で、今年で7回目となるヨコハマトリエンナーレが開催されています。 第1回から毎回足を運んでいますし [前回の鑑賞メモ]、 状況が好転する兆しが無い中、早く行ってしまった方がリスクが小さいだろうと、早速観てきました。 1日は午前にプロット48、午後に横浜美術館の2会場が精一杯で、日本郵船歴史博物館まで足を伸ばす余裕はありませんでした。

いわゆる絵画や彫刻のような平面や立体の作品ではなくインスタレーションが展示の中心となりがちな 国際現代美術展ですが、映像作品や映像投影とインスタレーションを組み合わせた作品など映像を使った作品が多くなっていました。 あと、欧州や北米を出身とする有名なアーティストはほとんど目に付かず、アジアやアフリカのアーティストの作品が多くありました。 これにはCOVID-19パンデミックによる開催上の制約の影響もあるかもしれませんが、 インド・ニューデリーを拠点をした Raqs Media Collective の指向でしょうか。 自分の興味とすれ違ったか全体として強く印象を残すことはありませんでしたが、 初めて観る、もしくは、今まで意識して観たことが無かった作家がほとんどということもあり、 興味深く観ることができました。 以下では、印象に残った作家・作品へ個別に軽くコメント。

メイン会場の横浜美術館ファサードを覆うのは、ベルリンを拠点とする Ivana Franke のインスタレーション。 と言っても、包むインスタレーションではなく、この布を透過する光を感じるインスタレーションでしょうか。 美術館のホワイエを飾る大型インスタレーションは、 庭飾りであるウィンド・スピナーを足場を組んで大規模にぶら下げた Nick Cave のインスタレーション “Kinetic Spinner Forest”。 どちらも物量でのインパクトが強い作品ですが、観客を迎えるにはこのくらいが良いでしょうか。

横浜美術館会場で印象に残ったのは、アニメーション作品とその制作に用いたパペット等の装置を 合わせて展示した2作品。 一つは、南アフリカの作家 Lebohang Kganye の “Reconstruction Of A Family” (2016)。 飛び出す絵本のような立体的なフォトコラージュを作り、それを繰りつつアニメーションの動きも加えて動画化した作品です。 William Kentridge [鑑賞メモ] を連想させられるところもありますが、 ドローイングではなく写真を使っているせいか、不条理よりも感傷を感じる作風でした。 合わせて、インスタレーション作品で使うような写真を実寸大で立て看板状にしたものを倉庫のように並べていましたが、それは映像投影空間の雰囲気作り以上のものはかんじられませんでした。

2019年に閉店した横浜美術館付きのレストランの跡の空間を使って展示していたのは、 張 徐展 [Zhang Xu Zhan (Mores Zhan)] の “Animal Story AT58” (2019)。 中国南部から東南アジアにかけてありそうな打楽器メインの音楽を演奏する小さな動物たちのアンサンブルの短編パペットアニメーションがレストラン客席で上映され、 その撮影に使った動物パペットとジオラマが厨房を使って展示されていました。 人形は特に可愛さを狙った造形ではありませんが、その細かい動きもあって、思わず可愛いと思って良しまう物がありました。

横浜美術館では完全予約制の作品が2つ。どちらも体験してきました。 その一つ、ドバイを拠点に活動する Lantien Xie の作品は、 介護・リハビリ用の歩行アシスト機器 (装着型ロボット) を付けて、 約1時間、横浜美術館の展示室内を歩き回るというもの。 脚腰に疲れが溜まった夕方に体験したのでいいアシストになった、という程ではなく、 機器が力をアシストするタイミングと自分の動きを同調させることはかなり難しいと実感。 20分もすると歩くのには慣れて歩かされている感も楽しめたのですが、 椅子に座ったり立ち上がったりする動きは最後までうまくいきませんでした。 そして、1時間後に外すと脚腰の感覚がすっかり狂っていました。 芸術作品として面白かった、コンセプト的に興味深いものがあったかはさておき、 歩行アシスト機器を1時間も使うというなかなか無い体験が楽しめたでしょうか。

プロット49会場の展示で最も印象に残ったのは、完全予約制の 飯川 雄大 [Takahiro Iikawa] の “This wall”。 壁が動く、ということより、部屋数室レベルの立体パズルを解きながら作品を鑑賞するような所が面白く感じました。

ナイジェリア出身でロンドン拠点に活動する作家 Rahima Gambo“Tatsuniya” (2017) は、ナイジェリア北部の少女たちの学園生活に題材を採った 写真とビデオ上映を組み合わせたインスタレーション作品。 イスラム系らしくベールをかぶったピンクの制服姿の女子生徒たちの遊ぶ姿も愛らしい様子が描かれています。 しかし、作品中でははっきりとした言及が無いのですが、このような学校が「西洋式」とイスラーム過激派 Boko Haram の襲撃の対象となり休学を余儀なくされ、 それが止みやっと復学した後の女子生徒の様子だったりするという、そんな仕掛けのある作品です。

バングラディシュ出身の映像・美術作家 Naeem Mohaiemen の約1時間の映像作品 “Jole Dobe Na [Those Who Do Not Drown]” (2020) は、 インド・西ベンガル州のコルカタにある使われなくなった空の病院で撮られた作品です。 1時間通してみたわけではなく、明確なストーリーが感じられる作りでも無く、意図を掴みかねるところもありましたが、 夫婦と思しき男女が病院の中を曰くありげに巡っていく様から、医療・ケアをめぐる作家の想いが静かに描かれているようにも感じられる映像でした。