ヨコハマトリエンナーレも今年で6回目。第1回から毎回足を運んでいるが、 横浜美術館をメイン会場とするようになって、少々大規模な程度の国際現代美術展という印象が強まっていた。 そんなこともあって今回もあまり期待せず、むしろ最近できていない美術館・画廊巡り代わり、気になる作家・作品にいくつか出会えれば、という軽い気分で足を運んだ。 気楽な気分で臨んだせいか、2008年 [レビュー] ほどではないものの、久々に楽しむことができた。
全体して設定されいるテーマが自分の興味から外れつつあるということは相変わらずだったし、 今まで意識することの無かった作家にさほど出会えたわけでなく、 以前から好きな作家の作品を楽しむことが多かったけれども、 以下では、印象に残った作家・作品へ個別に軽くコメント。
横浜美術館ファサードの救命ボートと救命胴衣によるインスタレーションは艾 未未 [Ai Weiwei] (中国)。 これらは難民救助のために実際に使われたものとのこと。 難民問題をテーマにした作家・作品が他にもあり、一つのテーマ提示といったところか。
横浜美術館の会場入口にあたるグランドギャラリーに置かれた Joko Aviant (インドネシア) の巨大な竹の編物。 地域固有の素材や技法を使ったマッシプなインスタレーション、というのはありがちだが、 中空の籠状の構造かと思いきや中もギッシリ詰まっていることに気づいて、少々驚き。
畠山 直哉 は東日本震災後の故郷を撮り続けているシリーズ『陸前高田』 (2011-) と、 フランスのノール・パ・ドゥ・カレー地方にあるボタ山を撮ったシリーズ Terrils (2011)。 パノラマ写真を円形にインスタレーションした展示はトリエンナーレらしいと思ったが、 やはり、Terrils のような静謐で端正な写真が好み。 人影の気配の写し込みも絶妙。 2011年の東京都写真美術館での回顧展 [レビュー] 以来、個展から遠ざかってしまっているので、 久しぶりに個展でゆっくり観たくなった。
Olafur Eliasson [関連レビュー] は お馴染み National career lamp (2007) も展示されていたけれども、 メインはワークショップによる Green light - An artistic workshop。 安定のかっこよさだったけれども、ちゃんとしたインスタレーション作品を観たかった。
フィリピンの Mark Justiniani は、 ほぼ平行に置いた鏡とハーフミラーを使って、トンネルの入り口や地下への降り口を出現させるインスタレーション。 シンプルなアイデアで、トリックアートといてありがちな気もするけど、細部をちゃんと作ってあって、こういう作品は嫌いじゃない。
横浜赤レンガ倉庫1号館へ移動して。 ポーランドの Christian Jankowski は身体 (特に体操的な) と芸術をテーマした三部作。 Heavy Weight History [YouTube] は、 歴史的な人物モニュメントを重量挙げ選手 (元国内チャンピョンやオリンピック選手を含む) たちに持ち上げさせる「競技」を、 スポーツ中継風のドキュメンタリ映像と彫刻を撮ったかのような白黒の端正な写真として作品化したもの。 周囲の大国に翻弄された近世以降の自国の歴史の「重さ」を重量挙げの「重さ」とかけた辛口のユーモアといい、スポーツ中継のパロディという形式といい、 Monty Python のスケッチかと思わせるところがありましたが、こういうユーモアは大好き。 バブリックアートの彫刻を使って器械体操の演技をする様を即物的に白黒写真に捉えた作品 Artistic Gymnastics も、 本来「器械体操」と訳される “Artistic Gymnastics” の Artistic をあえて「芸術的」と読み替えた上で 真面目に画像化してみせるセンスが良い。
アイスランドのパフォーマンスアーティスト Ragnar Kjartansson の The Visitor (2012) は、 9面のスクリーンを使ったビデオインスタレーション。 米ニューヨーク州の Hudson River Valley の歴史的な屋敷を舞台に、 その各部屋に8人のミュージシャンが別々に入り、ヘッドホンからの音だけを頼りに曲を演奏するというもの。 タイトルは ABBA のラストアルバムから採られているとのことだが、ABBA 風の音楽ではなく、 緩くメランコリックで indie folk / freak folk 的。 ちなみに、曲は Kjartansson の元妻 Ásdís Sif Gunnarsdóttir によるもの。 映像だけでなく、音楽を含めて、少々暗いトーンで感傷的な雰囲気は、 アメリカ的というより、アイスランドの indie pop などにつながる北欧的なものに感じられた。
最後は横浜市開港記念会館の地下。ここは、柳 幸典 の特別会場。 去年に BankART Stuido NYK で『ワンダリング・ポジション』を観たばかりだったので [レビュー]、 その再構成というか縮小再生産のような印象は否めなかったが、 古い建築物の地下を使い照明効果で廃墟的な雰囲気も作り出してのインスタレーションは、さすが。
ヨコハマトリエンナーレのフリンジ/オフ的なプログラムとして第2回のトリエンナーレから始まった、BankART Life も今年で5回目。 新港ピアを会場に大規模にやった回もあったけれども、今回は BankART Studio NYK の3Fをメインとしてこぢんまりと。 黄金町にかけての街中にも展開してたが、この BankART Studio NYK の展示だけ観てきた。 前回は少々残念な内容だったが [レビュー]、今回は初期の BankART Life [レビュー] に雰囲気が戻ったよう。 印象に残った作品について個別にコメント。
レジ袋を使って作った白い造花の花畑、丸山 純子 「無音花畑」は、 その色質感が殺伐といた剥き出しのコンクリートの空間にぴったり。
Nibroll の 高橋 啓祐 の波のような青い光のプロジェクション。 丸山 純子 の作品にしても、アンビエントなインスタレーションで、 自己目的化した芸術作品というより、舞台美術などの応用美術に近いセンスとは思うが、それも良い。
お馴染み 牛島 達治 の無用の機械。 不安定に回り続ける「大車輪—プロトタイプ」のぎこちなさ危うさも良いけれども、 エンドレスに大谷石を刻み続ける「地中より選ばれいずるもの–文明」の音響も耳を捉える。 BankART Studio NYK の雰囲気にも合っていて、さすがの安定感だった。
2013年に始まったバイアニュアルの現代アートを対象としたアワードの 最終選考者5名による展覧会が BankART Studio NYK の2階を使って開催されていた。 前回2015年の展覧会が良かった [レビュー] が楽しめたので、少々期待したのだが、 ヨコハマトリエンナーレや BankART Life の間で埋没してしまったか、 ここにたどり着く前に自分の集中力が枯渇してしまったのか、ピンとくる作品が無かった。