National Theatre Live のアンコール上映で 2015年の Ivo van Hove 演出作品がかかったので、観てきました。 ブルックリンのシチリア系移民街を舞台とした悲劇的な戯曲 Arthur Miller: A View from the Bridge (1955) の上演です。 港湾労働者 Eddie とその妻 Beatrixe は両親を亡くした姪 Catherine を娘のように育ててきたが、 Catherine がタイピストとして就職し、Beatrice の従兄 Marco と Rodolfo が不法移民として家に転がり込むことで生活が一変。 やがて、Catherine と Rodolfo が恋に落ち結婚を言い出し、 Catherine に執着する Eddie が移民局へ密告することで、悲劇的な結末を迎えるという物語です。
Ivo van Hove 演出作品は、All About Eve [鑑賞メモ] などいくつか観ていますが、 Hedda Gabler の印象が特に強く残っていて [鑑賞メモ]、 現代美術のインスタレーションのような象徴的な演出を期待したところもあリました。 しかし、ラストの血の雨のシーンこそ流石と思いましたが、それ以外はむしろミニマリスティック。 四方に腰掛けられる程度の高さのベンチ状の天板のついたガラス枠のある正方形の舞台で、 正面左右に客席を設け、舞台奥は黒壁で中央に人一人が出入できる口が空いていました。 Eddie の力が試される場面で椅子を使ったりしますが、家具のような道具もほとんど使われない、 俳優の演技だけで見せるような演出でした。
そんな演出は期待とは異なったのですが、つまらなかったことはなく、 特に Eddie 役の Mark Strong 圧の高い演技にぐいぐいと引き込まれました。 気まずい会話の場面での絶妙な間合いと、それを視覚化するかのような舞台四辺を活用した距離感、 間合いを埋めるかのように控えめに短調に鳴らされるボンゴ風の乾いたパーカッションの音も、緊張感を高めていました。 マッチョなDV男、「毒親」という面を現代的に風刺するように描くことも可能な物語ですが、 ミニマリスティックで抽象的な演出はそんな具体的な文脈を捨象して、 Eddie の Catherine への愛というか束縛的な執着の暴走を、むき出しで観客へ突きつけてくるようにも感じられました。