新国立劇場バレエ団の恒例の正月公演、 去年初めて足を運んでみたところとても楽しめたので [鑑賞メモ]、 今年も初日9日のマチネのチケットを押さえ「劇場に初詣」しようと楽しみにしていたのですが、 新型コロナウイルス検査で関係者から陽性反応が出て直前に公演中止に。 しかし、急遽、11日マチネの時間帯に無観客公演のYouTubeライブストリーミングが開催されることとなったので、自宅で観ました。
一番の目当ては、第3部の "Still Life" at the Penguin Café。 Penguin Cafe Orchestra の音楽 (録音では無くオーケストラ編曲したもの) を使っているということもありますが、 Royal Ballet や新国立劇場バレエ団による上演のスチル写真やトレーラー動画を観て、 被り物衣装での音楽にも似合ったユーモラスで可愛らしい踊りに惹かれていました。 しかし、実際に通して観ると、スチルやトレイラーで受ける可愛く楽しい着ぐるみバレエと異なり、 綺麗でお洒落だし、がっつりと踊るものでした。 女性ダンサーはヒールで、衣装も含め、バレエというより、ボールルームダンスや世界各地の伝統的な民俗舞踊のイデオムを強く感じるダンスでした。 ドレスとタキシードで華やかに踊るオープニングからオオツノヒツジの場面にけかては華麗なボールルームダンスでしたし、 ノミの場面ではイングランドの Morris dance、 シマウマの場面ではバックで "Zebra Girls" がヴォーギングのような動き、など。 Penguin Cafe Orchestra の音楽が世界の様々な音楽を混交して室内楽風に仕立てたもので、 様々なスタイルのダンスの混交も、音楽に合っていたでしょうか。
そんな多様な美しさを見せる舞台も、照明が暗くなり雨 (酸性雨) が振り出すと、トーンが一転します。 被り物を取り沈鬱な面持ちで逃げまどうように、そして方舟のようなシェルターに逃れていきます。 しかし、狂言回し的なウェイター役のペンギン (オオウミガラス) だけが残り寂しげな踊りで見送ります。 (踊られた様々なキャラクタが絶滅危惧種である一方、オオウミガラスが19世紀に絶滅した種を反映している。) そんなラストに向けて失われていくものに対する切なさというのも感じられた、期待以上に良い作品でした。
さて、第1部、公演のオープニングは、Petipa 振付のクラシックな Paquita。 貫禄すら感じるプリンシパル2名の踊りはもちろんコール・ド・バレエのレベルの高さも楽しめました。 その後は去年はクラシックな演目からのパ・ド・ドゥ抜粋だったわけですが、 今年はバレエ団のダンサーの振付によるコンテンポラリーな演目2つを含むもので、 プリンシパルダンサーの顔見せ以上の、バレエ団のクリエイティヴな面を見せようという意識を感じました。 特に Contact は Contact は触れ合うことの困難さを Ólafur Arnalds の post-classical な感傷を感じさせるピアノとストリングスによる音楽に合わせて情感豊かに演じるよう。 新型コロナウイルス感染拡大によって人が集まることが制限されているような 現在の状況にもあったテーマのダンスにも感じられました。 元々、3月の 『DANCE to the Future 2020』 [鑑賞メモ] で上演される予定だったもので、 こうして観られてよかったでしょうか。
ライブ・ストリーミングながらとても楽しめただけに、やはり劇場で生で観たかったという残念な気持ちも改めて湧き上がってしまいました。 『DANCE to the Future 2020』もそうですが、コロナ禍が鎮静化した後、観ることができればと思います。
『DANCE to the Future 2020』ではストリーミングが途切れることもあったので、今回もそんなものかろ予想していたのですが、 この『ニューイヤー・バレエ (2020/2021シーズン)』は28,000を超える視聴者数になったにも関わらず安定していましたし、 カメラワークも良くなっていました。 経験を積んで着実に向上しているところも、さすがです。