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Review: 『20世紀のポスター[図像と文字の風景]—ビジュアルコミュニケーションは可能か?』 @ 東京都庭園美術館 (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/03/14
Constructive posters of the 20th century
東京都庭園美術館
2021/01/30-2021/04/11 (2/10,24;3/10,24;4/5休), 10:00-18:00.

『20世紀のポスター[タイポグラフィ]—デザインのちらか・文字のちから』 [鑑賞メモ] から10年ぶりとなる、多摩美術館寄託の竹尾ポスターコレクションに基づく20世紀ポスターデザインの展覧会です。 (日本語タイトルには無いのですが) 英語タイトルにあるように「構成(主義)的な」デザインに焦点を当て、 ポスターや関連書籍130点が出展されていました。

3部構成で、第1部「図像と文字の幾何学」では第二次世界大戦直後20世紀半ばの「インターナショナル・スタイル」 “International (Typographic) Style”、 特に雑誌 Neue Grafik で有名な Zurich や Basel を拠点にしたデザイナ (Josef Müller-Brockmann 等) による “Swiss style” と、 HfG Ulm の Max Bill 等の “Ulm style” に焦点が当てられていました。 一階食堂に並べられた Josef Müller-Brockmann の一連の音楽コンサートのポスターなど、 “International Style” のマスターピースの貫禄でした。

第2部「歴史的ダイナミズム」では、“Swiss style” や “Ulm style” のルーツとなった 戦間期 Avant-Garde による構成主義的なデザインが、 ロシア構成主義やドイツの Bauhaus 界隈を中心に展示されていました。 第2部の点数は少なめでルーツ的な参照という程度で、今回の展示の核はやはり第1部でしょうか。 第1部と第2部の展示は本館を使い、第1部の合間合間に第2部の展示がコラム的に差し込まれ、クロノロジカルな展示は避けられていました。

新館ギャラリーの第3部「コミュニケーションのありか」は、1970年代以降、 カウンターカルチャーの影響やポストモダニズムの時代のデザインの中で、 構成主義的なもの、“International style” の要素が強いものを取り上げています。 点数としては第3部が約半数を占めるのですが、多様性の中に拡散して漠とした印象となるのは、やはり否めません。

ある程度予期していたものの観た事のあるポスターも少なくありませんでした。 そんな中で最も興味を引かれたのは、出展ポスターの用紙・印刷版式・書体の利用傾向の統計でした。 用紙・印刷版式の観点では非塗工紙に凸版印刷の第1, 2部と 塗工紙にオフセット印刷の第3部と、ここにも大きな変化があったことに気付かされました。 また、第1部で焦点を当てられていた “International Style” の書体というと Helvetica や Univers と思っていたのですが、 最も使われていたのは Akzidenz Grotesque で、 第2, 3部を通してみても Akzidenz Grotesque が根強く使われてきているサンセリフ書体であると気付かされました。

しかし、おそらく集客上の都合があるのだろうと思うのですが、 展覧会のキーワードであろう「構成(主義)的」とか「インターナショナル・スタイル」という用語の出てこない、 インパクト重視で内容に即していない展覧会タイトルです。 「ビジュアルコミュニケーションは可能か?」というサブタイトルにしても、 何か根源的なことを問うているようで、ビジュアルデザインの展覧会であれば何にでも付けられるというタイトルでほとんど情報がありません。言葉が軽過ぎます。 最近観た展覧会では、東京都現代美術館で開催されていた『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』 [鑑賞メモ] のサブタイトル「血が、汗が、涙がデザインできるか」もそうでしたが。 広告のキャチコピー、もしくは、ある種の新書タイトルを思わせます。 どちらも公益財団法人東京都歴史文化財団の運営する美術館なので、同じ所が絡んでいるんでしょうか。