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Review: Pipilotti Rist: Your Eye Is My Island @ 水戸芸術館現代美術ギャラリー (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/09/20
水戸芸術館現代美術ギャラリー
2021/09/18-2021/10/17 (月休; 月祝開, 明火休), 10:00-18:00.

1980年代後半から現代美術の文脈で活動するビデオを使ったインスタレーション作品と得意とするスイスの作家 Pipilotti Rist の個展です。 グループ展やコレクション展で観る機会はありましたが、個展を観るのは2007年の原美術館 [鑑賞メモ] 以来と、十余年ぶりです。 シングルチャネルのビデオ作品から、オブジェ等へのプロジェクションマッピングを経て、 スクリーンだけでなくオブジェ等への投影も含むマルチチャネル・ビデオのインスタレーションに没入して体験するような作品へと展開していると実感する展覧会でした。

東京都現代美術館のコレクション展にあった “A Liberty Statue for Tökyö” (2009) [鑑賞メモ] もそうでしたが、 ビデオ投影される壁の前にはカーペットが敷かれ、クッションが並べられていて、横になりつつ観るようになっています。 “4th Floor To Mildness” (2016) のように、ギャラリーにはダブルベッドが不規則に並べられ、 そこに横たわって天井に投影されたビデオを観る作品もありました。 緊張を持って作品に向いあうというより、リラックスすることを促されるような展示です。

投影される映像は、人肌を舐めるような、もしくは、草むらの中や水中を蠢く小型動物の視点で見るかのような小型カメラの映像が多用されます。 その彩度を強調したり、色相や明度を反転したり、万華鏡のように反転したものを重ねたりなどの エフェクトをかけられた映像は、サイケデリックな印象を与えます。 人肌を舐めるような映像では性器なども映り込んだりするのですが、 クロースアップされ過ぎているうえにエフェクトをかけられ、直ぐには気づかないほどです。

さらに、今回は鑑賞する空間自体がインスタレーションとして作り込まれていました。 “Sentimental Sideboard” (2020-2021) や “Hakone Ruhe” (2020-2021) では David Lynch も連想させられるような奇妙なホテルのラウンジのような空間が作られ、 カウチに身を沈めながら、映像やオブジェを観るというより、その空間の雰囲気を体験します。

“Caressing Dinner Circle” (2017) では、会食用の丸テーブルに着いてガラスや白磁の食器が並ぶテーブル上に投影される映像を鑑賞します。 “Hakone Ruhe” 「箱根の静けさ」というタイトルもありますし、 Rist のお宅というより、Rist が仮想的にプロデュースしたリゾートホテルのラウンジやレストランで、 作品と向かい合うというより、作品世界に浸る (実際、Rist は水に浸るような映像を多用する) ような体験でした。

そんな世界に浸るような最近の作品も楽しんだのですが、 一通り観終えた後に、メインの展示室から少し離れた第9室を使って上映されていた初期シングルチャネル・ビデオ作品を観て、 初期のパンキッシュなビデオ作品が良さも再認識しました。 (2007年に少々長めに書いているので、今回は多くは語りませんが。) ここで上映されていた初期作品の中にも今回初めて観るものがありましたが、 その中で興味を引かれたのは “Pickelporno” (1992)。 ポルノビデオへ反対するのではなく、より望ましい性的な感覚の可視化方法の追求というコンセプトがあったようなのですが、 小型カメラによる極端なクロースアップやサイケデリックなエフェクトなど、 今回上映されていた初期ビデオ作品の中で最も、最近のマルチチャネル・ビデオインスタレーションに使われている映像に近いものでした。 実際のところメインの会場でのインスタレーションで性的な感覚を意識させられることは無かったのですが、 作家の意図としては性的な感覚の暗示も含んでいたのだろう、と気付かされました。

屋外展示もあるのですが、“Hiplight (for Enlighted Hips)” (2011) にしても ライトが付いていないと単に下着が干してあるだけのようですし、 “Open My Glade (Flatten)” (2000) は夜間のみの投影ということで観られませんでした。 これから行こうという方はご注意ください。