東京都写真美術館1Fホールの上映企画 『世界の秀作アニメーション2022春編』で、 この3本を観てきました。
くすんだ色彩で色面にもムラが残るちょっとぼやけたパステル画のようなイラストレーションが動くかのようなアニメーション映画です。 舞台は英仏海峡に面した海水浴場リゾート、 そこに住む一人暮らしの老女 Louise が、一人取り残されて過ごしたオフシーズンを幻想的に描いた作品です。 夏の終わりの嵐に皆が避難してまい気付くのが遅れた Louise が一人残されたという設定ですが、 実際にそれが起きたというより、静かなオフシーズンの街で Louise が自省するように想像した話なのかもしれません。 海岸に面した砂丘の上に掘立小屋を作り、畑を作り魚を取って生活するのですが、 サバイバル生活というよりのんびりマイペースの生活かのように描かれます。 その間にカットバックでまだ年頃だった頃の若かった頃の思い出のエピソードが入ります。 封印されたトラウマが露わになるというより、歳をとって忘れかけていた話をぼんやりと思い出す中で、Louise の人物像の陰影が濃くなるように感じられました。 ちょっとぼやけたパステル画の画面のように、鮮烈な印象を与えるものではないけれども、淡々とした味わいを感じる作品でした。
Wolfwalker 『ウルフウォーカー』 (2020) [鑑賞メモ] などで知られる アイルランドのアニメーション・スタジオ Cartoon Saloon によるアニメーションです。 舞台は、2001年のタリバン政権下のアフガニスタン、 父親がタリバンに拘束されて女ばかりで市場へ買い物へもいけず窮地に陥った一家を救うため、少女 Parvana が髪を切り少年になりすますという話です。 特に女性に対して抑圧的なタリバンの描写は Les Hirondelles de Kaboul 『カブールのツバメ』 (2018) [鑑賞メモ] と共通しますが、 主人公が大人ではなく子供のせいか、ディストピア感は薄めでしょうか。 拘束された父親を救うという大きな物語があって、それは少女が暗唱している寓話的な少年冒険譚と重ねられられて描かれます。 しかし、冒険譚のようなハッピーエンドを Parvana の話には付けられないこともあり、大きな物語ばぼやけたような。 むしろ、Parvana と同じく少年のふりをして働く親友 Shauzia とのエピソードなど、 少年のふりをするようになってからのエピソードの積み重ねの方が印象に残りました。
カンボジア内戦下、1975年のクメール・ルージュによるプノンペン陥落の後に起きた大量殺戮を描いたアニメーション作品です。 監督はフランス人ですが、母がカンボジア人で、主人公の Chou のモデルにもなっているとのこと。 プノンペンに住む Chou の一家 (Chou の夫、夫の祖母、母やその息子、夫の弟妹からなる大家族) が、 プノンペン陥落後、農村に強制移住される中で見舞われる悲劇を描いています。 外からの情報が遮断され、監視下におかれ、強制労働と飢えで尊厳が奪われていく様が描かれていきます。 タリバン政権下のアフガニスタンにも近いようで、舞台が農村で強制労働という要素も大きいせいか、都会的なディストピア物とは違う不条理を感じました。 Chou の家族で生き残ったのは Chou と息子だけですが、死因・行方不明の理由は様々で、 大量処刑のような組織的な大量殺戮ではなく、でたらめな政策の抑圧的な実行で犠牲者が積み上がっていく様を描くようでした。 絵はくっきりとシンプルなもので、グロテスクな場面の直接描写はありませんでしたが、 クメール・ルージュの大量虐殺を題材にしていると覚悟して観たけれども、次々と不条理に死んでいく展開はキツいものです。 実写だったら、リアルすぎて耐えられなかったかもしれません。