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Review: Noism0 + Noism1 『お菊の結婚』, Noism × 鼓童 『鬼』 @ 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/07/10
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2022/07/09, 17:00-18:30.
Noism0 + Noism1 『お菊の結婚』
演出振付: 金森 穣.
音楽: Igor Stravinsky: Les noces
衣装: 堂本 教子.
出演: Noism: 井関 佐和子, 山田 勇気, Geoffroy Poplawski, 井本 星那, 三好 綾音, 中尾 洸太, 庄島 さくら, 庄島 すみれ, 坪田 光, 中村 友美, 樋浦 瞳, 杉野 可林, 糸川 祐希.
世界初演: 2022年7月1日 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
Noism × 鼓童 『鬼』
演出振付: 金森 穣.
音楽: 原田 敬子 「鬼」舞踊と打楽器アンサンブルのための (2020-2022)
衣裳: 堂本 教子.
演奏: 太鼓芸能集団 鼓童: 米山 水木, 小平 一誠, 吉田 航大, 木村 佑太, 平田 裕貴, 渡辺 ちひろ, 中谷 憧.
出演: Noism: 金森 穣, 井関 佐和子, 山田 勇気, Geoffroy Poplawski, 井本 星那, 三好 綾音, 中尾 洸太, 庄島 さくら, 庄島 すみれ, 坪田 光, 中村 友美, 樋浦 瞳, 杉野 可林, 糸川 祐希.
世界初演: 2022年7月1日 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉

新作を精力的に発表し続ける Noism Company Niigata [2021年冬公演の鑑賞メモ] による 佐渡を拠点に活動する太鼓芸能集団 鼓童とコラボレーションしての新作公演です。 ナラティヴな『お菊の結婚』に抽象度の高い『鬼』と対称的な2作品の組み合わせでしたが、 今の自分の気分には『お菊の結婚』のようなナラティヴな作品の方がしっくりきました。

前半に上演されたのは、鼓童とのコラボレーションではなく、 ディアギレフ生誕150周年ということで、1923年に Ballets russes が初演した Igor Stravinsky 作曲のバレエ Les Noces [Свадебка] のリメイクでした。 Stravinsky の音楽を使って、 André Messager 作曲のオペラ (1893) でも知られる Pierre Loti の小説 Madame Chrysanthème 『お菊さん』 (1885) に着想した物語 –長崎にやってきたフランス海軍将校 Pierre が芸者 お菊 と現地妻として娶る話– を演じたナラティヴなダンス作品で、タイトルも『お菊の結婚』となっています。 楼主 (結婚仲介人の勘五郎) 役だけでなく女将役、さらには Madama Butterfly 『蝶々夫人』を思わせる本国の妻の役が加わる一方、 Pierre の子分 Yves は登場せず、ラストで Pierre が死ぬ、等の変更が加えられていました。

原作で Pierre がお菊を「人形」と見ていることに着想して、 Pierre とそ本国妻役以外、お菊だけでなくお菊を Pierre へ売ろうとする遊郭の人々の踊りが人形のような動きとなっていました。 Pierre の日本人に対する差別的な視線を可視化しているだけでなく、 早回しの人形浄瑠璃にようだったり、むしろお菊を売ろうとする遊郭の人々に対する風刺的なドタバタだったりと、多義的に感じられました。 そして、歌入りかつパーカッシヴな Stravinsky の音楽が、意外にもそんな狂騒的な雰囲気に合ってました。

後半はメインの鼓童とコラボレーション作品 『鬼』。 鼓童の活動の場である佐渡に取材し、 上相川の遊女町 (柄杓町) の起源に関する 佐渡金山の創業期に相川で勧進したという熊野比丘尼を率いた清音尼に着想した作品です。 『お菊の結婚』のようなナラティヴな作品ではなく、 金山創業期にあったと思われる修験道的なものを 清音尼率いる遊女たちと金山を開いた山師たち (修験者でもある) のダンス –Noism1のダンサーたちが様々な組み合わせを見せるだけでなく、 Noism0の2人に 金森 穣 を加えて単純なデュオを避けるかのようなダンスに、全員での群舞– として表現したかのような作品でした。

白米の滝に打たれつつの祈念するかのような『Fratres』三部作 [鑑賞メモ] など典型的ですが、Noism のダンスには修行を思わせる所もあり、修験道的なイメージとは親和的。 金のイメージも、金塊とか金貨のような形あるものとして見せるのではなく、 舞台前方の床に貼られた金箔の反射や、ラストの場面のうっすら金光りする後方の幕など、 不定形の雰囲気的なものとして表現されます。 鼓童に太鼓アンサンブルが演奏する 原田 敬子 作曲の音楽は、 力強い太鼓の打撃音だけでなく繊細なテクスチャを生かしたもので、 太鼓の音で山師たちが力強く踊るだけでなく、 (後半にはそんな衣装も脱ぎ捨てNoism らしくストイックな雰囲気になるのですが) 衣装の紅い袖をひらめかせつつの遊女たちが艶やかに舞う場面も印象に残りました。