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Review: Odéon - Théâtre de l'Europa / Ivo van Hove: La Ménagerie de verre [The Glass Menagerie] 『ガラスの動物園』 @ 新国立劇場 中劇場 (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/10/10
新国立劇場 中劇場
2022/10/01, 19:00-21:00.
de Tennessee Williams
Mise en scène: Ivo van Hove
Avec Isabelle Huppert (Amanda), Justine Bachelet (Laura), Cyril Guei (Jim), Antoine Reinartz (Tom)
Traduction française: Isabelle Famchon; Dramaturgie: Koen Tachelet; Scénographie, lumière: Jan Versweyveld; Costumes An D’Huys; Son et musique: George Dhauw
Production: Odéon - Théâtre de l'Europe
Première: 6 mars 2020, Odéon - Théâtre de l'Europa

オランダ Internationaal Theater Amsterdam の Ivo van Hove による演出、 Odéon - Théâtre de l'Europe (フランス国立オデオン劇場) のプロダクションによる、 Tennessee Williams: The Glass Menagerie 『ガラスの動物園』のフランス語での上演です。 原作の舞台設定は1930年代のセントルイスですが、Ivo van Hove らしく現代に舞台に移しての上演でした。 舞台上は、濃いベージュ色の毛足の長い起毛生地の壁紙の壁に覆われ (父の顔が描かれているとのことでしたが自席からは判別できませんでした)、 家具といえばソファークッションなどの小物が少々、あと、中央のキッチンコーナーに冷蔵庫とキッチン台がある程度の部屋の内装で、 小さな窓とその隣の登る階段が奥に続く出入り口がここが地下室であることを暗示します。 そんな部屋を使った密室劇で、照明こそ効果的に使われたものの、映像等は全く使わず、 Ivo van Hove にしてはかなりオーソドックスにも感じられた演出でした。

フランス語上演というと2018年に観た Daniel Jeanneteau 演出 [鑑賞メモ] を思い出すのですが、 ブラックな職場に勤める Tom と毒親 Amanda、引きこもりの姉 Laura、意識高い系の同僚 Jim という 現代の普遍的な状況として描いている所は近く感じられました。 しかし、Jeanneteau 演出では Tom の記憶越しに少々淡く Amanda や Laura、Jim が描かれていたのに対し、 Ivo van Hove の演出では Tom は語り手として一歩引いた感じがあり、 むしろ Amanda、Laura、Jim が丁寧に、かつ、肯定的に演じられていました。 映画女優としても有名な Isabelle Huppert 演じる Amanda は、その演技もあってか、 令嬢だった時代に拘っているというより、その時の気分が抜けきらない子供っぽさが抜けきらない女性のようで、 その積極性が空回りするものの悪意や性格の悪さは感じさせませんでした。

そして、何より後半の Laura と Jim の場面。 Laura は身体的ではなく精神的な障害 (おそらく、モデルとなる Tennessee Williams の実姉と同じ双極性障害) として描かれる一方、 Jim も単なる意識高い系というより、Amanda に似て、素晴らしかった過去の記憶に生きる人という面もあったことに気付かされました。 暗い舞台の上でロウソクの光で2人を浮かび上がらせての語らい、そして、Laura を振り回すかのような激しいダンスを通して、 Laura が Jim へ憧れていたことだけでなく、共通の高校時代の記憶を通して Jim が Laura に惹かれていく様も丁寧に描いていました。 演技だけでなく照明使いといい音使いといい最も印象に残った場面でした。 その後の Laura と Jim の別れも含めて、こんなにメロドラマチックな場面だったのか、と。

メロドラマチックといえば、その音楽使い。 Laura と Jim が踊る場面では Arcade Fire “Neighborhood #1 (Tunnels)” で、 Jim に婚約者がいると知って Laura が心情を吐露するような場面では Barbara “L'Aigle Noir (dédié à Laurence)” が使われていました。 場面転換の場面などに使われた Claude Debussy “Clair de Lune” や Astor Piazzola “Libertango” なども印象に残りました。 知る人ぞ知る曲というよりそのミュージシャンの代表曲ともいえるそれなりにポピュラーな曲を、ここぞという場面に打ち込んできます。 こういった音楽使いは Hedda Gabler [鑑賞メモ] での Joni Mitchell “Blue” や Leonard Cohen “Hallelujah” の選曲を連想させるものがあり、これも Ivo van Hove らしいのかもしれません。

この海外招聘公演は2020年秋に予定されていたもののCOVID-19の影響で2回延期となり、今年、やっと実現しました。 正直に言えば Ivo van Hove の奇抜な演出や Isabelle Huppert の生の演技の期待が大きかったのですが、 Huppert に花を持たせるようなものではなく、変に奇を衒わずにそれぞれの登場人物を丁寧に描いた演技・演出で、良い意味で裏切られました。 今まで観た Ivo van Hove 演出作品の中では Hedda Gabler に並ぶくらい、最も好みでした。