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Review: Teerawat Mulvilai and Nontawat Numbenchapol (dir.), Dr. Charnvit Kasetsiri: An Imperial Sake Cup and I 『恩賜の盃と私』 @ 東京芸術劇場 シアターイースト (レクチャーパフォーマンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/11/04
Dr. Charnvit Kasetsiri / Teerawat Mulvilai and Nontawat Numbenchapol
東京芸術劇場 シアターイースト
2022/10/22, 16:00-17:30.
構成・出演: Dr. Charnvit Kasetsiri [チャーンウィット・カセートシリ].
演出: Teerawat “Ka-ge” Mulvilai [ティーラワット・ムンウィライ (カゲ)], Nontawat Numbenchapol [ノンタワット・ナムベンジャポン].
初演: MAIIAM Contemporary Art Museum, Chiang Mai, Thailand (国際交流基金アジアセンター [The Japan Foundation Asia Center] “The Breathing of Maps”), 2020.

タイ・タマサート大学の歴史学者によるレクチャーパフォーマンスです。 出演者や演出者の背景知識もほとんど無く、大学の講義の延長のようなものだったらどうしようと危惧しつつも、 レクチャーパフォーマンスと呼ばれる上演形態というか舞台表現のジャンルがどのようなものかという興味があって、足を運んでみました。

第二次大戦前のタイに生まれた Dr. Charnvit Kasetsiri による、 1964年の日本の皇太子夫妻のタイ訪問の際に賜った盃を契機ときっかけに タイの20世紀の歴史を日本も絡めて描くパフォーマンスです。 おおよそ時系列に沿っているのもの、大学の講義のように体系立てて歴史を描くのではなく あくまで私的な体験の中にタイの歴史も浮かび上がらせるような語りでした。 語りに合わせて、コレクションの盃やそれに関係するものを示したり、プライベートな写真、関連する報道写真・映像を投影します。 それだけでなく、下手に控えるオペレーターが影絵芝居をしたり、時には舞台に現れて短いながら台詞を発したりもしました。

1976年タイの軍事政権復帰の際にタマサート大学を去り、翌年に二度とタイには戻らないという気持ちで京都大学 (東南アジア地域研究研究所) に移り、 その後、タマサート大学に復職して頻繁にタイと京都を行き来しているとのこと。 第二次大戦中の日本軍の残虐な行為やタイにおける軍事政権など、双方の比較的否定的な面にも触れつつ、 それを声高に批判したり、あるべき姿を主張するのではなく –アフターパフォーマンス・トークでの話を聞くとそれなりの主張は持っているようでしたが–、 個人的な愛憎半ばする感情として淡々と語る、その穏やかな語り口が印象に残りました。 ただ、自分が予想していた以上に、日本の戦後の天皇制に好意的に感じられました。 大学教授という肩書をことさら利用する演出ではありませんでしたが、 アメリカ留学や京都との行き来などのエピソードも、私的な語りながら人前話慣れした感も、職業柄かもしれません。

本人による事実ベースの語りという点で Rimini Protokoll: Black Tie [鑑賞メモ] も思い出され、 確かに講義ではなく、むしろドキュメンタリー演劇とも言えるような表現でした。 本人が語るのではなく俳優が演じていた National Theatre Live の The Lehman Trilogy [鑑賞メモ] ほど演劇的な演技はありませんでしたが、 歴史語りパフォーマンスとでもいうべき舞台芸術のあり方もあるのだと、改めて意識させられました。

アフター・パフォーマンストークでもタイ語での質問が出ましたし、 自分の前に座っていた2人組もそんなタイ語のやりとりを肯きながら聞いていましたし、 在日本タイ人の観客も少なからずいたようでした。 舞台上の語りだけでなくそんな客層にも、日本とタイの関係を感じることができました。