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Review: Compagnie Maguy Marin: May B @ 埼玉会館 大ホール (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/11/20
埼玉会館 大ホール
2022/11/19, 15:00-16:45.
Chorégraphie: Maguy Marin
Avec Kostia Chaix, Kaïs Chouibi, Daphné Koutsafti, Antoine Lavel, Louise Mariotte, Lisa Martinez, Isabelle Missal, Catherine Polo, Rolando Rocha Soto, Ennio Sammarco.
Lumières Alexandre Beneteaud; Costumes Louise Marin; Musiques originales: Franz Schubert, Gilles de Binche, Gavin Bryars.
Co-productions: Compagnie Maguy Marin, Maison des Arts et de la Culture de Créteil.
World première: 4 novembre 1981, Théâtre Municipal d'Angers, France.

コンテンポラリー・ダンスの源流の1つであるフランスのヌーヴェル・ダンス (Nouvelle danse française) 文脈で1970年代後半から活動する振付家 Maguy Marin による、 Samuel Becket の作品の登場人物に着想したという最初期の代表作です。 Maguy Marin の作品は今までそれなりに観る機会がありましたが [鑑賞メモ]、 May B は今まで何回か日本で上演されていたものの、見逃していました。

10名のダンサーたちによるダンス作品ですが、 前半は、20世紀初頭頃の下着 (ユニオンスーツなど) もしくは部屋着姿を思わせる白い衣装に頭部を白塗りにし、 ハンディキャップのある人々の動きというよりも、当時の庶民の洗練されていない (上流階級から下品とされているような) 身のこなしに着想したかのようなダンスが、 Franz Schubert の音楽やベルギー・ワロン地方バンシュ (Binche) のカーニヴァル音楽に乗って繰り広げられます。 なるほどこれがGroosland [鑑賞メモ] のルーツかと興味深く、 その一方でユーモラスとも思いつつもそう感じることに少々居心地悪さを感じつつ観ていました。

その後、場面が変わり、下着姿から外着姿に変わり始めるのですが、そこからはむしろ 演劇的というかマイム劇のような展開に切り替わります。 バースディケーキを持った老人の男性とそのパートナーらしき女性のペアを中心に、 2〜3人ずつが組みになって静かに佇む/座り込んだところでは、 戦間期のモダニズム写真家が撮り出した庶民の肖像写真を活人画として見るよう。 さらに、Gavin Bryars: Jesus' Blood Never Failed Me Yet を音楽に、 旅する人々を描くような場面となります。 その旅は、服装や荷物や振る舞いからして、 19世紀の上流階級のグランドツアーや20世紀後半に入って大衆化した観光旅行ではなく、 19世紀末から20世紀初頭にかけて欧州で大量発生した出稼ぎや移民として移動する人々のようで、 そのぎこちない動きはフレームレートの低いサイレント映画を見るよう。 そんな時代の人々の苦労と逞しさへの思いを余韻に残しました。 Salves を観た時にピンと来なかったことが [鑑賞メモ]、腑に落ちたようにも感じました。