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Review: Nadine Labaki (réal.): Sukkar Banat [Caramel] 『キャラメル』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/02/19

『イスラーム映画祭』も今回で第8回。 以前から観たいと思っていた映画がかかったので、足を運びました。

Sukkar Banat [Caramel]
『キャラメル』
2007 / France, Lebanon / colour / 96 min.
Réalisation: Nadine Labaki.
Musique: Khaled Mouzanar.
Nadine Labaki (Layale), Yasmine Al Massri (Nisrine), Joanna Moukarzel (Rima), Gisèle Aouad (Jamale), Sihame Haddad (Rose), Aziza Semaan (Lili), Fatmeh Safa (Siham), Adel Karam (Youssef (The policeman)), etc.

レバノンの女優かつ映画監督 Nadine Labaki の長編第1作です。 舞台はベイルートのビューティー・サロン (日本でいう美容室とエステ・サロン、ネイル・サロンなどを合わせたような店)。 その女主人 Layale とそこで働く Nisrine と Rima、 女優志望の常連客 Jamale、隣の仕立屋の女主人 Rose の5人を描いた群像劇です。

Layela は妻子ある男との先の見えない不倫にハマっていますが、 Nisrine や Rima がその妻を客として店に呼んだことで彼の一家の様子を知ることになり、関係に見切りがつきます。 その一方で、店の前の通りを担当する警官 Youssef の好意には気づきません。 Nisrine は婚約しているものの処女でないことが保守的な一家や夫にバレないか心配してますが、 Layale らに励まされて処女膜再生手術を受け、結婚式を挙げます。 ショートヘアの Rima は密かに同性愛の指向があり、 彼女の施術を受けるようになった同じ性的指向を持つ客 Siham は彼女に触発されてショートヘアにします。 女優志望の常連客 Jamale はオーディションを受け続けるものの、受かることはありません。 女手一つで認知症の姉 Lili の面倒を見る Rose は、身なりも気にせず働いてきましたが、 スーツを直しに訪れた老紳士と良い雰囲気になり、 一旦は Layale の店で髪の手入れをし化粧をして彼の誘いに乗ろうとしますが、姉を見捨てられずに彼を諦めます。

内戦の影響はあるもののアラブ世界の中でも最も開放的な街ベイルートで、 かつ、登場する女性たちはイスラム教徒ではなくキリスト教徒 (マリア様の祭の様子も映画の中に出てくる) ということもあるかと思いますが、 描かれる女性5名は、それぞれ上手くいかない事を抱えつつも、自立的に生きています。 内戦などのレバノンの困難な状況は描かれませんが、 女性たちの生きかた、そしてお互い助け励まし合う友情というかシスターフッドを、ほろ苦くもユーモアを交えて描いた映画でした。 特に凝った映画的技巧を使っているわけではなく、大きな事件が起きたりもしませんが、女性たちの日常の機微の描写がじんわりと沁みる映画でした。

2009年の日本公開時はノーチェックだったものの、 その後、Et maintenant, on va où ? (2011, 邦題『私たちはどこへ行くの?』) [鑑賞メモ]、 Capharnaüm (2018, 邦題『存在のない子供たち』) [鑑賞メモ] と Nadine Labaki 監督作品を観てきたわけですが、期待を裏切らない良さでした。 イスラム教徒の多い街ベイルートを舞台としているもののキリスト教徒を描いた映画で、 『イスラーム映画祭』の趣旨からすると境界的な映画だとは思いますが、 こういう機会でも上映されて映画館で観ることができて、よかったでしょうか。