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Review: 鈴木 重吉 (監督) 『雁來紅(かりそめのくちべに)』 (映画); 岡田壽子プロダクション 『江戸子守唄』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/02/25

国立映画アーカイブの上映企画 『日本の女性映画人 (1) –– 無声映画期から1960年代まで』 で、この映画を観ました。

『雁來紅(かりそめのくちべに)』
1934 / 入江ぷろだくしょん / 配給: 新興キネマ / 96 min. / 35 mm / 白黒
監督: 鈴木 重吉.
入江 たか子, 渡邊 篤, 伊達 里子, 汐見 洋; 特別出演: ヘレン・本田, 相川 マユミ, etc.

当時の人気女優 入江 たか子 が1932年に設立した独立プロダクションによる、初のトーキー映画です。 主人公は台湾の商社の日本法人の支配人 (渡辺 篤) とその妻 (入江 たか子) の夫婦で、 台湾から来訪した社長 (汐見 洋) を自宅での夕食に招いたものの、仲違いした妻は妹の家へ行ってしまい、 社長には伏せてタイピスト (伊達 里子) に妻代わりを頼んだところ、妻が途中で帰宅して…、 と、その場凌ぎの嘘に振り回される様を描いたコメディです。 渡辺 篤 と 伊達 里子 の配役は、日本初の本格トーキー映画 『マダムと女房』 (五所 平之助 (監督), 松竹蒲田, 1931) [鑑賞メモ] を連想させます。 愛嬌があるというより気品のある美女という雰囲気の 入江 たか子 がコメディにあまり合わなかったか、 コメディのプロット自体はたわいないものに感じましたが、音楽やダンスの場面に興味を引かれました。

夫と仲違いした妻が家を出て妹宅に身を寄せるのですが、妹は歌手 (ちなみに夫は画家) という設定で、 妹役を演じるコロムビア專属歌手 ヘレン・本田 がウクレレを弾きながらの歌を披露します。 社長に言われて行くことになる赤坂溜池のダンスホール、フロリダの場面では、 配役字幕で「新進ジヤズダンサー」とクレジットされていた 相川 マユミ によるソロダンスのショーが長く捉えられています。 そんな場面から当時のモダンな音楽や舞踊の受容の様子が伺われ、とても興味深いものがありました。 歌もダンスもハワイアンの影響が強いもので、当時の流行ぶりが伺われます。 映画の撮影がロケかセットか判断しかねましたが、 赤坂のフロリダといえば、映画女優デビュー前の 桑野 通子 [関連する鑑賞メモ] がダンサーしていたことでも知られる、当時有名だったダンスホールです。 フロリダでのソロダンスのショーの場面を観ながら、フロリダってこういう所だったのか、桑野 通子 もこういう風に踊っていたんだろうか、と、感慨深いものがありました。

『江戸子守唄』
1930 / 岡田嘉子プロダクション / 4 min. / 35 mm / 染色
出演: 岡田 嘉子; 撮影: 木村 秀勝; 歌: 関屋 敏子.

新劇女優でもあり、後にソビエト逃避行でも知られる 岡田 嘉子 が設立した独立プロダクションでの作品です。 タイトルにもなっている「江戸子守唄」に合わせ、 岡田 嘉子 が、大きな格子柄のモダンな和装で、当時本格的に取り組んでいたという日本舞踊の舞を踊る様子を捉えた4分ほどの短編です。 歌は 岡田 嘉子 ではなく別に録音して付けた、サウンド版のサイレント映画です。 歌詞字幕が入るところはカラオケの映像みたいと思いましたが、今でいうミュージックビデオでしょうか。 1930年というと、サウンド版映画という観点でも日本国内では最初期にあたりますが、この時点で既にこういう音楽映像の作り方がされていたのか、と感慨深いものがありました。 また、 同じカットを細かく繰り返し挟んでタイミングを調整するような映画の編集からは、 当時の技術で歌と踊りをシンクロさせることの難しさが伺われました。