プログラムの Director's Note によると 「700を超えるシューベルトの歌曲(全てを聴いて)から、愛と死というテーマに基づいて21曲を選び出し、本作品は創作された」 という、2022/23シーズンの新作です。
舞台には、後方に幅1 m高さ1 m程の出入り口が開けられた白いのっぺりとした壁があり、 最前方と最後方壁前に一列に赤い薔薇が一列に取れるように立てられただけ。 照明は上からフラットに照らすことはあまりなく、スポット的か、前方下方もしくは横からの光で、 陰影を強調するような演出でした。 全体を通した物語が感じられるというほとではないのですが、 ささやかな物語性と寓意性の感じられるスケッチのような小場面を連ねていくような構成です。 ダンスとしても、群舞やアクロバティクなリフトなほとんど排され、多くて5人、デュオやソロを連ねるような展開でした。 今までの Noism であまり感じることが無かった、金森、井関、山田 以外の各ダンサーの個性というか役者っぷりが出ていて、そこが面白く感じられました。
前半は、愛のパート。前後に並んだ赤い薔薇を手に取り、 明朗かつコミカルに、必ずしも男女のではない愛を描いていました。 赤い薔薇のような小道具を堂々と使いこなせる、というのも、Noismならではかもしれません。 それを見守る舞台前方下手の 山田 の存在も、良い意味での異化作用を作り出していました。 しかし、「愛と死」がこれでいいのか?と少々不安にもなりましたが。 中盤で、暗くなった舞台に運命の女神かのように白いスリップドレス姿で静かに 井関 が登場することで転換して、死のパートに入ります。 痴情の絡れの上の殺害のような死のパターンも無かったわけではないですが、一人また一人と静かに斃れていくよう。 歌詞が聞き取れればまた違う印象を受けたかもしれませんが、 死の瞬間のドラマチックな悲しみというより死後しばらくしての喪失感を思わせる死の表現でした。 そして、最後に皆が揃って立ち上がった姿で横一列に並び、亡くなった人たちへ静かに祈りを捧げるのような仕草で終わりました。 これが代わりか、カーテンコールはありませんでした。
『春の祭典』 [鑑賞メモ] や 『BOLERO 2020』 [鑑賞メモ] の、 災害/疫病/戦争の続く暗い世相を受けたような作品も好きですが、 このような普遍的なテーマの扱いも良いものだな、と思うような作品でした。