ゴールデンウィーク後半6日土曜の昼、 『ストレンジシード静岡2023』 [鑑賞メモ] を抜け出し、 日本平北麓へ登って『ふじのくに⇄せかい演劇祭2023』のプログラムの一つを観てきました。
韓国の伝統芸能 판소리 [pansori |パンソリ] に基づく音楽劇、もしくは、語りや寸劇も交えて演じられるコンサートとでもいう内容の舞台です。 伝統的には巫女に由来する女性歌手 소리꾼 [solikkun] と伴奏の鼓手 고수 [gosu] の2人組で演じられますが、 この作品は6人の女性歌手と、男性の鼓手に加えて、伽耶琴 가야금 [gayageum] 等を演奏する女性奏者の8人構成です。 演出、作曲を手がける 박인혜 [Park In-hye] がリード歌手的な役割を担うことが多いものの、地声による女声ポリフォニー的な合唱で演じられます。 低く強くコブシを効かせた pansori らしい節回し、発声も用いられますが、 1990年代のワールドミュージック以降の文脈で、特に南欧や東欧の folk/roots の文脈で広く見られる地声による女声ポリフォニー (例えばイタリアの Faraualla [CD鑑賞メモ]) を思わせるアレンジです。 オノマトペも使ったリズミカルな展開では Zap Mama を思い出したりもしました。 語りの部分も特に子供役の語りの部分などパンソリ的では無い自然な発声を用い、 扇子を片手にという型は伝統的なものの、その振りはしなやかに。 衣装も、치마저고리 [チマチョゴリ] 的な形をベースにしつつも、白と淡い青色色をベースにした可愛らしくも清潔感があり、上品です。 歌い口も仕草も時にリズミカルに、時にユーモラスに、実にチャーミング。 音楽劇を観るというより、コンサートを聴くように、楽しみました。
歌わ/語られる内容は、済州島に伝わる家に宿る神々の起源譚です。 貧しい中、刺繍で収入を得て7人の子を育て、離島へ商売に行ったまま行方不明になった夫を探しに行くという、 女性を主人公とした冒険譚というのも、女声コーラスという形式に合っていたでしょうか。 ヨーロッパの女声ポリフォニーも伝統的なテーマ (例えば、地中海地域の地母神的なマリア信仰とか) を取り上げますし、 そういうところも共通します。 そんなワールドミュージックの女声ポリフォニーはヨーロッパ的と思っていたところがあったので、 東アジアの伝統芸能をベースにしても、こういう事ができるのか、と、気付かされました。
演出・作曲した박인혜 [Park In-Hye] は、国家指定重要無形文化財技能履修者とのことですが、 伝統芸能として演じるというより、パンソリをベースにした創作に取り組んでいるとのこと。 2019年にも鳥取県 鳥の劇場の『BeSeTo演劇祭26+鳥の演劇祭12』のプログラムとして <판소리 오셀로> [Pansori Othello |『パンソリ「オセロ」』] で来日していたことに、 今更ながら気付きました。 このようなアプローチは興味深く、他の作品も観てみたいものです。