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Review: Muscha (Regie): Decoder 『デコーダー』 (映画); Mohammed Lakhdar-Hamina (réal.): Chronique des Années de Braise 『くすぶりの年代の記録』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/10/09

新宿 K's cinema の『奇想天外映画祭2023』で、以下の2本を観てきました。

Decoder
『デコーダー』
1984 / Fett Film (DE) / 87 min.
Regie: Muscha
mit F.M. Einheit, Bill Rice, Christiane F.; special guests: William S. Burroughs, Genesis P-Orridge.

まだ冷戦下の1984西ベルリンで制作された映画です。 F.M. Einheit (Einstürzende Neubauten) 演じる主人公の青年が 諜報機関や大資本 (ハンバーガーチェーン) の支配を覆すためにノイズで暴動を引き起こすというストーリーです。 予想以上に低予算で、暴動の場面はニュース映像と思われるものを繰り返し使い回ししていますし、諜報機関の男 (Will Rice) との駆け引きもサスペンスにしては緊張感に欠けるもの。 William S. Burroughs のカットアップ手法の映像化と言いますが、 スタイリッシュな映像というより、アイデアに予算や手法が追いつかないキッチュさを感じるカルト映画でした。 主役の恋人役が Christiane F. で William S. Barroughs (ジャンク電子部品屋店主役) と Genesis P-Orridge (ノイズ・カルトの指導者おぼしき役) がゲスト出演、 サウンドトラックも F.M. Einheit / Einstürzende Neubauten, Genesis P-Orridge (Psychic TV), Dave Ball / Soft Cell, Matt Johnson / The The と Some Bizzare 勢が関わっており、 1980年代前半西ベルリン、Neue Deutsche Welle や noise/industrial の心象風景はこういう感じかと興味深く観ました。

Chronique des années de braise
『くすぶりの年代の記録』
1975 / (Algérie) / 177 min.
Réalisation: Mohammed Lakhdar-Hamina.
avec Yorgo Voyagis, Mohammed Lakhdar-Hamina, Larbi Zekkal.

フランス植民地下の第二次世界大戦直前 (1939年) から独立を目指した武力闘争が始まる1954年のアルジェリアを舞台に、 ある男の半生を描いた約3時間の大作のアルジェリア映画です。 半砂漠の半農半牧の貧しい村に住む主人公の青年 Ahmed は、旱魃で先の見えない村を捨てて街に出ます (「灰の時代」)。 そして、岩塩鉱山や農場の労働者として働くうちに、原住民 (indigene) に対する過酷な植民地統治に反感を抱くようになります (「荷車の時代」)。 村に戻り窮状を見て同志を募ってダム破壊するものの捕まり、自由フランスの囚人兵として第二次世界大戦の戦場へ送り込まれます。 戦後、ただ一人生還して街で鍛冶職人となります (「くすぶりの時代」)。 やがて、闘志からの影響や抗議行動への弾圧に直面して、独立武力闘争に身を投じます (「虐殺の時代」)。 多くの人物が登場しますが群像劇というほど多声的ではなく、Ahmed と狂言回し的な狂人 Milhoud の視点で展開し、 最後には Ahmed も Milhoud も死に、Ahmed の息子に未来が託されます。

オーソドックスな映像表現で、3時間は少々長く感じられましたが、 あまり目にすることのない、半砂漠、雪の降る山中、迷路のような街中などのアルジェリアの風景を美しく捉えられており、 アルジェリア独立戦争に至る経緯を現地のそれも下層の人々の視点から描いたストーリーも含めて、とても興味深く見ました。 シネマスコープサイズと思われる画面をスタンダートサイズにトリミング、もしくは、横方向に圧縮した画面だったのは、少々残念でしたが。

特に映画の中で明示的に表現されていたわけではないですが、 アルジェリア独立戦争は Aurès 地方での蜂起から始まっていますし、 主人公の親族の女性は顔にタトゥーを入れていましたし、出身地の音楽が Aurès 地方のもののようで、 主人公は Aurès 地方の Berber 系 (Chaouis) なのでしょうか。 そんなこともあって、Houria Aïchi [関連する鑑賞メモ] の音楽の向こうにある風景を見るような興味深さもありました。

この映画 (Chronique des Années de Braise) は1975年の Festival de Cannes で Palme d'Or を取っているのですが、 この映画の監督 Mohammed Lakhdar-Hamina は、その前にも Le vent des Aurès 『オーレスの風』 (1966) で1967年のFestival de CannesでPrix de la Première œuvreを取っています。 英語版 Wikipedia によると、 Le Vent des Aurès は明らかにソビエト映画、特にウクライナのОлександр Довженко [Alexander Dovzhenko]の影響があるとのこと。 Aurès 地方が舞台の映画ですし、とても気になります。 言われてみれば、Chronique des Années de Braise も、 狂人 Milhoud を狂言回しとして話を進めたりと、 Звeнигopа [Zvenigora] (1928) [鑑賞メモ] ほど幻想的な演出ではないものの似たところがあったでしょうか。

そういう期待で観に行ったわけではありませんが、どちらの映画も特集上映のタイトルのような「奇想天外」な映画ではありません。 観る機会がほとんどなさそうな映画の特集上映という点ではありがたいのですが。