1967年に日本へ返還されたアメリカ議会図書館に残存していた戦前戦中の日本映画を特集した 国立映画アーカイブの特集上映『返還映画コレクション(1)――第一次・劇映画篇』で、 これらの映画を観てきました。
大学の陸上部の行軍演習の様子を描いたある意味で戦時色濃い映画です。 主人公の陸上部の花形選手 関 (佐野)、ライバルの 谷 (笠)、 落伍したりとコメディリリーフ的な役割の 森 (日守) と木村 (近衞) などのやり取りをつつ、 突撃のような勇ましい雰囲気の場面も無いわけではないですが、 通過する道を行く人々、村々の人々とのさりげないやり取りなどを中心に描いた、 清水 宏 らしいオフビートなユーモアを交えロードムービー的な展開です。
ハイキング中の女学生グループや周囲の村々の子供が隊列を追いかける様子や、 落伍した2人を救援する途中に出会った子連れの門附の女 (流しの芸者) と花形選手の淡い交流、 宿泊した宿場の村での村民たちや木賃宿に泊まっている人々とのやり取り、など。 特に、子供が病気になった門附の女が金策に売春しようとし、それを森が止めようとする場面の一連の展開が、 そこにつけ入ろうとする旅の行者や、売春を斡旋する木賃宿の婆さんの描写、 門附の女と戻った所を女遊びしていると間違われて懲罰されることになる展開も含めて、 単にユーモラスなエピソードの羅列だけではない、細民に向けられたヒューマニスティックな視線と、抒情的て繊細な描写を感じました。
2014年に観た時の印象 [鑑賞メモ] と変わらず、 職場で同僚に嫉妬される状況の描写こそ少々類型的で風刺的かとは思いましたが、 家での 兄、兄嫁、妹の3人家族の日常のやりとりの細かく自然な仕草の演技も含めた丁寧な描写は、さすがです。 ここ映画での男勝りなキャリアウーマンな妹 文子の役は、やはり 桑野 通子 のはまり役、 彼女が出演した映画の役の中でも最高です [関連する鑑賞メモ]。
2本ともDVD/ネットで観たことはあれど、スクリーンで観たのは初めて。 大画面で観て、野外ロケの風景や、家での細かい演技など、情報量の多さに改めて気付かされました。 やはり、コンデションの良い状況で、映画館で観るのは良いものです。