The Metropolitan Opera live in HD 2023-24 Seasonの第一弾は、2000年初演の原題を舞台としたオペラ作品です。 オランダの Ivo van Hove の演出は、昨シーズンの Don Giovanni がとても良かったので [鑑賞メモ]、期待の上映でした。
原作は、アメリカ・ルイジアナ州で死刑囚 (Joseph de Rocher) のカウセラーとなった尼僧 (Sister Helen Prejean) の回想録で、 1995年には映画化もされています (といっても、原作は読んでおらず、映画は観ていません。) 主人公はルイジアナ州の貧困地区で慈善活動をする尼僧で、 若いカップルに対するレイプ及び殺人の罪で死刑囚となった男のカウンセラーとして、 最初は手紙のやり取りに始まり、やがて直接面会する様になり、その死刑執行を見届けるという話です。 原作者/主人公は死刑廃止論の立場ですが、オペラにおいても主人公の視点だけでなく、 映像で犯行の様子をはっきりと描き、死刑囚本人だけでなく、死刑囚の家族や被害者の家族とやり取りを通して、 死刑制度の是非を多声的に描いていました。
2000年初演の作品ですが、原作者の指定もあって音楽は調性的で、現代オペラというより映画音楽のよう。 おかげでとっつきやさはあった思いますが、もっとアブストラクトな音の方が好みでしょうか。 Ivo van Hove の演出に期待していたのですが、元々が現代を舞台とした新作オペラなので、現代への翻案の妙のようなものはありません。 そもそも刑務所という殺風景な場所が主な舞台ですが装飾的なものが抑えられたミニマリスティックな演出で、 ドアから入る光の使いなどに Hedda Gabler [鑑賞メモ] を思い出したりもしましたが、 個々の演技はナチュラルなもの。 特に、ラストの死刑執行の場面は象徴的に処理することなく、ここぞというばかりにその手順も含めてリアルに描いていました。 尼僧が死刑囚に初めて面会にドライブする場面での歌・演技と映像の組み合わせなど流石と思いつつも、 映像使いも異化を狙うというよりも説明的に感じられました。 期待し過ぎたのかもしれませんが、Ivo van Hove にしてはベタな演出に感じてしまいました。