照明や舞台装置を駆使して超現実的なイメージの連鎖を作るパフォーマンスを作風とする ギリシャの演出家 Dimitris Papaioannou の、 2022年の Transverse Orientation [鑑賞メモ] に続く3回目の来日公演です。
ティザー動画や写真で観て大量の水を使うということはわかっていたものの、 中盤くらいで水を使い出して舞台上の様相を一転させるのだろうと予想していたのですが、冒頭の場面から全開で水を使ったパフォーマンスでした。 床には数センチの深さで水が溜まった状態で、後方には高さ5〜6 mはあろう透明なビニールカーテンがかけられています。 そんな舞台で、上手にスプリンクラーを置いて、下手に向かって舞台を横切るように水を噴霧し、 時には後方へも首振りさせつつ、もしくは、ノズルを外してホースから水をだだ流ししたりしながら、パフォーマンスを繰り広げます。 また、水飛沫を白く浮かびあがらせたり、水を注ぎ入れた球状のガラス鉢を白く光らせたり、後方に張った透明なビニールシートを波打たせつつ光で波を浮き上がらせたり、と照明が効果的でした。 蛸や (動くオモチャの) 魚などの小道具も使いましたし、ガラス鉢とミラーボールの対比も良かったですが、水の存在感が圧倒的です。 Nowhere [鑑賞メモ] が劇場・舞台装置が主役でそれに振付した作品でしたが、 この INK は水が主役、水に振付した作品のようでした。
パフォーマーは、「服を着た男」 (Papaioanou 自身) と「裸の男」の2人のみ。 「服を着た男」はスプリンクラーなどを操作したりしつつ、水面下に置かれた透明で薄いパネルの下から闖入してきた「裸の男」の男を取り押さえようとドタバタを繰り広げます。 ホワイエに展示されたアートワークにイメージの元ネタはありましたが、 そういった個々のイメージよりも、全体として、理性を表わす「服を着た男」が、 本能もしくは無意識、もしくは、未成熟といったもの想起させる「裸の男」を抑えこもうとする悪あがきを観たような印象が残りました。
まるで水が主役の舞台に観ていて「コンテンポラリー水芸」という言葉がふと頭をよぎりました。 そして、後半というか終わり近く、「服を着た男」が上着を羽織り、 バルカン/ジプシー風らしき音楽を舞台上で小さな音で流し、 立てたテーブルの向こうに抱えた赤子(の人形)を投げ入れるとまるでマジックショーのように代わりに「裸の男」が登場し、 「服を着た男」が「裸の男」を猛獣使いのように扱う展開になりました。 あからさまにサーカス的という訳ではありませんでしたが、そういう展開を見ると、あながち「コンテンポラリー水芸」という思い付きも外していなかったかもしれません。
水と照明を駆使した様々なイメージも見応えありましたし、1時間余りという長さもあって冗長さも感じることもなく、 今まで観た Dimitris Papaioanou の3回の公演の中で最も楽しめました。 今回の INK は日本はロームシアター京都のみの公演だったのですが、京都まで遠征して見た甲斐がありました。
京都岡崎エリアは界隈の美術館へはたまに行くので、前を通ったことがありましたが、 ロームシアター京都 (京都会館) で公演を観たのは初めてでした。 サウスホールは中ホールに相当するものですが、 横長で舞台が遠いことは無いのですが、1階席はフラット気味で舞台奥行き方向が見づらいでしょうか。 今回の公演に限っていえば、床に張った水面の表情がもっと見やすかったら、と思ってしまいました。