現代アートの文脈で活動する 内藤 礼 による東京国立博物館の展示室などの空間を使った展覧会です。 細やかなものを配置して視線を誘導し光のきらめきや移ろいを感じさせるサイトスペシフィックでミニマリスティックなインスタレーションを得意とする作家が 東京国立博物館の展示空間をどう使うのか、という興味で足を運びました。
第一会場の平成館企画展示室は約30mの細長い空間で、その片側に掛け軸や屏風絵なども展示できる高さで長さ10m余のガラス張りの展示ケースが2つ並んでいます。 自然光の入らない薄暗く照明を落とした空間に、2009年 神奈川県立近代美術館 鎌倉 でのインスタレーション [鑑賞メモ] を思い出しました。 展示ケースの中には入れないものの、宙に浮くような色の玉の連なりや風船、小さな鏡やガラス玉などが配されて、半ば瞑想するかのように静かにそれらを目で追う鑑賞体験でした。
第二会場は本館正面入口の階段裏にある特別5室。幅15m奥行20m高さ10m程の、壁の高い所にある窓から自然光が入る空間で、 2007年 入善町 下山芸術の森 発電所美術館の中2階 [鑑賞メモ] を思い出しました。 しかし、作品があることが一見ではわからないミニマリスティックなインスタレーションだった入善とは対極的で、 内藤 礼 にしては高い密度で立体やドローイングの作品が床や壁に配置されていました。 さらに、光の加減かとは思いますが、大理石を吊るす糸だけでなく、《母型》のガラスビーズを吊るすテグスがくっきり白く光って見えていました。 自然光の入る天井高い空間の雰囲気は良かったのですし、 フロアに展示されているキャンバス絵画を含むオブジェなどからしてコンセプトを前景化する意図があったのだろうかとも思いましたが、 インスタレーションとしての趣には欠けました。
第三会場は本館1階ラウンジ。裏庭に面した大きな窓のある10m×5m程の休憩スペースを使ってのインスタレーションです。 休憩スペースとはいえ順路上にあるため常設展示を観る大勢の観客が常に通過する中でそれを鑑賞することになります。 意識を外すことで霞のよう感じられる通過する人々越しにささやかな煌めきを観るということも、 内藤 礼 の展示が目的ではない観客がこの展示に気付いての相互作用も面白く、 今迄のインスタレーションに無かった鑑賞体験でした。
自分が観に行った時は、第一会場入場の行列も数名、第二会場は並ばず入場できるほどで、鑑賞者の多さは気になりませんでした。 しかし、さすが東京国立博物館でしょうか、タイミングによっては会場はかなりの混雑になっているようで、8月1日より事前予約が必要な日時指定制となるようです。
連携企画で同タイトルの展覧会が Ginza Maison Hermès Le Forum で始まったので、観てきました(以下2024/09/08追記)。
展示に使われているモチーフなど、東京国立博物館との共通点も多く、第四会場的な位置付けもあるのでしょうか。東京国立博物館との間のシャトルバスも運行されていました。 例えば、8階ギャラリー上に張り出した9階から吹き抜け越しに望むブロックガラスの壁の上に貼られたチラチラを微かに光って見える直径1 cmほどの鏡 (向かい合わせの白壁にも同じ鏡が貼られている)、 北側のギャラリーの大きな台の上に置かれた5 cmほどの八角形の鏡の上に置かれたケシ粒大の白い物体、 宙の浮くような色の玉に当てたスポットライトが作るぼんやりとした丸い影など、 こちらの展示の方が、展示の中から細やかな煌めきを探すような楽しみ方ができました。 また、観他のがちょうど18時前後の日没の時間帯で、ブロックガラス越しの外光の、明るい夕陽から夕闇と広告看板などの明かりへの、移ろいを感じました。 自然光の入る第二会場も、日没頃の時間帯の方が良いのかもしれません。