21世紀以降、アメリカ・シカゴのサウス・サイドを拠点に現代アートの文脈で活動する、かつ、 アーバニズムを社会実践する社会企業家的な面も持つ Theaster Gates の展覧会です。 2004年に陶芸を学ぶため常滑に来日して以来、日本の文化に影響を受けたとのことで、 アメリカ公民権運動の“Black Is Beautiful”と日本の民藝運動を融合した「アフロ民藝」をテーマにしていました。
展示の前半から中盤にかけては社会実践の資料展示も含め民藝運動とは関係なく彼のそれまでの作風に焦点を当て、最後に「アフロ民藝」の作品が集められています。 貧乏徳利の並んだディスコ (Disco Tokkuri) のようなインスタレーションは組み合わせの意外さはあれど、 民藝運動と公民権運動の関係が腑に落ちるようなことはありませんでした。
むしろ、前半の「神聖な空間 (Shrine)」と題されたセクションの作品、黒人教会を思わす Hammond B-3 organ と7台の Leslie speakerb を使ったインスタレーション «A Heavenly Chord» (2022) で鳴り響くドローンや、 地域の教会の取り壊し現場で歌や楽器を演奏と廃材となった扉を打ち鳴らす様を交えてたビデオ作品 «Gone Are the Days of Shelter and Martyr» (2014) での歌とサウンドスケープの間のような音使いが、気に入りました。
展示に関係して、世界の動きや民藝運動、アメリカ公民権運動に関する年表が展示されていたのですが、 公民権運動というかアフリカ系アメリカ人に関するものが薄く感じられました。 特に、#MeToo はあるのに Black Lives Matter が載って無いというのは、この企画に合ってないのでは、と感じられてしまいました。
森美術館のコレクションを紹介する小展示では、 ベトナムの映画監督・映像アーティストによるビデオ/サウンドインスタレーション «47 Days, Soundless» (2024) が展示されていました。 天井から下げられたアームから樹状に広がるように付けられた8枚の円形の鏡を使って映像を「乱反射」させるような投影上の工夫は感じられました。 しかし、そんな映像よりも、映画から撮ったというサウンドスケープ的な音とも楽器音とも感じられるような絶妙な音空間に、 Theaster Gate の音使いとも共通するものが感じられ、そんな所に興味を引かれました。
上映を全て観たわけではないのですが、ビデオというメディアの特性に着目したというより、ナラティヴな作風のものが多いのでしょうか。 台湾の第一、第二世代のビデオアーティストが筑波大で山口勝弘の下で学んだという話に、 筑波総合造形からの流れ [鑑賞メモ] には 国境を越えたものもあったのかと、この展示で気付かされました。
展覧会タイトルのシリーズ「津波の木 (Tsunami Trees)」は 『DOMANI・明日2020 傷ついた風景の向こうに』 (国立新美術館, 2020) で観たことがありましたが [鑑賞メモ]、 大判のプリントで立木の形状の捉え方の妙を久々に楽しむことができました。 高知の津波避難タワーを捉えた新作シリーズ「Kochi」は、小さめのプリントを15×2で30枚並べるという展示です。 タワーに中央に捉えつつもタイポロジー的になるのを避けるような遠近の取り方と周囲様子の入れ込み方に興味を引かれつつも、大判のプリントでどう見えるのか少々気になりました。