アニュアルで開催されている文化庁芸術家在外研修の成果報告展です。 定点観測で毎年観ていますので、今年も観てきました [去年の鑑賞メモ]。 今年は日本博スペシャル展というわけか、新進芸術家というより既に公立美術館でのそれなりの規模の個展を開催してる作家を揃えてました。 テーマを持って構成されていましたが、強く方向付けられたという程の展覧会ではありませんでした。 今回参加された中では、日高 理恵子、宮永 愛子、そして、畠山 直哉が良かった。
日高 理恵子 は1980年代から樹木の重なる枝葉をほとんど白黒に見えるほどの低い彩度で麻紙に岩絵具で描いてきた作家です。 近年の作品のタイトルが「空との距離」とあるように、枝葉を使って距離感というか奥行き感を表現するよう。 焦点深度浅く撮られたかのように奥に行くにつれてボケて奥行き感を強調したり、 長時間露光で撮られたかのように奥行き感の無いのっぺりとした描き方をしたりと、 奥行感を操作するかのように描かれた抽象画のように感じられました。
宮永 愛子 といえば 揮発するナフタリンを素材に日用品を象った立体作品 [鑑賞メモ] ですが、 今回出展されていたのは東日本大震災以降に制作を始めたという、 金木犀の脱色した葉脈を12万枚繋ぎ合わせて作った紙もしくは不織布のようなものを使ったインスタレーションでした。 淡いベージュのような色彩も繊細なレースようであり、 その一方で幅約3.8 m、長さ約30 mというスケールの大きさも同居した美しさでした。 久しぶりに観ましたが、ナフタリンだけでは無いのだなあ、と。
畠山 直哉 は新作シリーズ、untitled (tsunami trees) が展示されていました。 近年は東日本大震災で激甚な津波被害を被った故郷 陸前高田の様子を捉えた 彼にしてはドキュメンタリー色濃写真を撮っていましたが [鑑賞メモ]、 それ以前の画面の幾何的構造の面白さを生かした写真 [鑑賞メモ] が戻ってきました。 被写体となっているのは、津波の被害で立ち枯れたり、息を吹き返した立木ですが、 1990年代半の Blast シリーズで 採石場で発破で飛び散る岩で不定形に歪んだ球形を描いていたのと同じように捉えられています。
特に良かったのは、巨大堤防、自動車道の高架橋や整えられた盛土などが一緒に写し込まれた写真。 立木の描く不定型な形状と人工的な構造物の直線的な形状とのコントラストが、 彼の写真らしい、静かな緊張感を作り出していました。 やはり、こういう 畠山 直哉 の写真は大好きです。