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Review: Philippe Parreno: Places and Spaces @ ポーラ美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2024/12/08
Philippe Parreno
Places and Spaces
フィリップ・パレーノ『この場所、あの空』
ポーラ美術館
2024/06/08-2024/12/01 (会期中無休). 9:00-17:00.

現代美術の文脈で1990年代から活動するフランス出身の作家 Philippe Parreno の個展です。 Nicolas Bourriaud: Esthétique relationnelle 『関係性の美学』 (1998; 辻 憲行=訳, 水声社, 2023) で言及され、 リレーショナル・アートの作家として知られます。 個展としてまとまった形で観る良い機会かと、会期末に駆け込み鑑賞しました。

リレーショナル・アートというと、ワークショップを多用したりワーク・イン・プログレスの展示だったりで、 展示自体はそれらのドキュメントだったり、DIY色濃いとりとめないものだったりすることが多いものですが、 今回の展覧会はポーラ美術館という場所のせいか、その後の作家の作風の変化か、むしろ、しっかり構成演出された展示でした。

最も印象に残ったのは、Marilyn Monroe が1955年に住んでいたニューヨークの高級ホテル Waldorf Astoria のスイートルームを題材とした作品です。 人のいた気配はあるけれども無人のスイートルーム内を漂うように捉えつつその様子を語るようで微妙に食い違いのある女性のナレーションが添えられたビデオが大きく投影されます。 ほぼ同じナレーションで2巡目に入ると、軽い機械の音を背景にホテルの便箋に文字をダブらせるようにペンを滑らす様子が投影されるのですが、 やがてカメラが引くとペンを走らせていたのはプロッターであり、スイートルームもセットであったことが明かされて、ビデオは終わります。

そのビデオは壁自体もしくは壁掛けの薄いスクリーンや液晶ディスプレイで上映されるのではなく、 ステージのように張り出して設置されたうっすら半透明のパネルに投影され、 パネルの後ろにスピーカーや照明が置かれ、 ビデオが投影されていない時は後ろに枠状に並んだ照明がポツポツと透けて見えます。 また、ビデオの伴奏の音楽も、録音を流すのではなく傍に置かれた自動ピアノで演奏されます。 さらに、上映されている空間はブラックボックスのままではなく、上映が終わる度に暗幕がひらき、外の可動式のリフレクタを使い外から陽が差し込ませられます。 そんな仕掛けもあって、ブラックボックス内でループで上映されているビデオ作品を鑑賞しているのとはかなり違う、 ピアノ伴奏も機械仕掛けて映像の中も無人であるものの、ライブでの上演を観たのに近い感覚になりました。 ラストでメタな視点が入ってくるビデオの構成も舞台上演を収録した映像に近く感じられ、そういった時間空間の演出に合っていました。

ビデオ作品 Anywhen (2016) の上映も Marilyn ほどでは無いものの、 他のインスタレーションの動作と組み合わせて上映されていましたし、 ドローイングの展示でもガラスケースのガラスを調光ガラスにして断続的に不透明化してケース内と手前の視野を切り替え、 空間の奥行きや時間展開を鑑賞させることで、Marilyn に類似した、時間空間を忘れた鑑賞とは異なる体験をさせるようでした。

そういった時間空間演出とは違うものの、窓越しの周囲の緑と外光が美しい展示空間を生かし、 そんな空間にヘリウムガス封入の魚型のバルーンを漂わせた My Room Is Another Fish Bowl (2018) も、 親しみやすく空間を異化する楽しさを感じました。

展覧会を観た後は森の遊歩道へ。 2019年の『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』展以来常設の Susan Philipsz: Wind Wood (2019) [鑑賞メモ] や、 2021年の Roni Horn: When You See Your Reflection in Water, Do You Recognize the Water in You? 展以来常設の Air Burial (Hakone, Japan) (2017-2018) [鑑賞メモ] と再会してきました。 しかし、2010年代末から現代アートの企画展が増えたのでもっと足を運びたいと思いつつ、2〜3年に1回程度。 箱根という好ロケーションですし、もっと足を運びたいものです。