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Review: Pablo Berger (dir): Robot Dreams 『ロボット・ドリームズ』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2024/01/03
Robot Dreams
2023 / Arcadia Motion Pictures SL (ES), Lokiz Films AIE (ES), Noodles Production SARL (FR), Les Films du Worso SARL (FR) / 103 min. / DCP.
Director y Guionista: Pablo Berger; Basada en la novela gráfica de Sara Varon.
Director de Arte: Jose Luis Ágreda; Director de Animación: Benoît Feroumont; Música: Alfonso de Vilallonga; Music Editor: Yuko Harami.

アメリカの Sara Varon によるグラフィック・ノヴェル Robot Dreams (2007) の スペインの映画監督 Pablo Berger によるアニメーション映画化です。 アニメーション映画を撮ったのは初めてのことで、実写での映画の作風も知らないものの、 Festival international du film d'animation d'Annecy 2023 Contrechamp セクション長編のベストだったこと、 実現しなかったものの当初は Cartoon Saloon との協働を望み、 The Secret of Kells (2009) [鑑賞メモ] に参加した Benoît Feroumont をアニメーターに迎えたこと、 といったことに興味を惹かれて観てみました。

登場人物は全て擬人化された動物で、主人公は犬 (Dog) と、そのパートナーとなったロボット (Robot) です。 原作は読んでいませんが、原作ではセリフが無いとのことで、アートハウス系のアニメーション映画ではよくある手法ではありますが、映画でもセリフを用いていません。 シンプルな描線によるキャラクター造形をそのまま生かし、1970年代頃のセル画アニメーションのようなベタ塗りの彩色の2Dアニメーションとして仕上げています。 また、原作は時代や場所を特定できるような描写は無いとのことなのですが、映画では1980年代半ばのニューヨークに舞台設定されています。

孤独な都会暮らしの青年 Dog が友達ロボット Robot を購入することで始まる、 出会いと突然の別れ、そしてそれぞれの別の出会いと、すれ違うような再会を描いたストーリーです。 セリフよりも音楽と動き (ダンスではなくアニメーションですが) で展開する所がミュージカル的に感じる時もあり、 新しいパートナーとの将来を選ぶほろ苦く切ないエンディングに Jacques Demy: Les Parapluies de Cherbourg 『シェルブールの雨傘』 (1964) を思い出されました。 といっても、2人を隔てる階級差のようなものはなく、別れの原因も兵役ではなくオフシーズンのビーチの閉鎖、意図しない妊娠のような要素もなく、後味はそこまで重くはありません。 Dog と Robot は友情以上に親密な関係とは思いましたが、映画中では恋愛とも友情とも取れるようなプラトニックな描写のみ。 性別やエスニシティを明示するような描写はほぼありませんでしたが、 大きくフィーチャーされた Earth Wind & Fire のヒット曲 “September” もあって Dog と Robot の関係にゲイ的なものを感じました。

映画において舞台とした1980年代半ばのニューヨークのディテールも具体的です。 ニューヨークは2003年に一度一泊したことがあるだけで1980年代当時は知りませんので店などの固有名詞は分かりませんが、 1980年代半ばというとちょうど高校生の頃でTV等のメディアを通して垣間見る機会はあり、 Gayla Kite や Chupa Chups などの小道具を懐かしく思いました (これらの流行は1970年代のようにも思いますが)。 Dog の部屋のレコードコレクションにはThe Feelies, R.E.M., The Smiths, Talking Heads, Blondieなどニューウェーヴ/インディロックのジャケットが見え、 いかにも社交的ではない孤独な都会の青年の趣味っぽくあります。 (当時、自分もその手の音楽をよく聴いていたので、懐かしくもありました。) 映画中では Earth Wind & Fire “September” が象徴的に使われていましたが、 そんなファンク/ディスコとレコードジャケットから推測されるニューウェーヴ〜インディ・ロックとは受容層が被らないので、 “September” は Dog ではなく Robot のフェイヴァリットなのでしょう。

Dog の部屋の中の描写といえば、Pierre Étaix の映画 Yoyo (1964) [鑑賞メモ] のポスターが貼られていました。 アートハウス系の映画館に通っていそうという Dog の性格付けという面もあると思いますが、 Yoyo もセリフを極力排した無声映画的な演出という点も符合します。 Dog の不器用で不甲斐ないキャラクターは、Étaix より Jacques Tati に通じるかな、とは思いますが。 というか、Dog の悲哀と笑いとのアンビバレントを感じさせるキャラクターは Chaplin や Buster Keaton のサイレント映画をも思わせるところがあります。 特に中盤の Dog と Duck の出会いやデートの場面は Buster Keaton 演じるダメ男の台無しデートコメディのようです。 他にもクラシックなミュージカル映画のオマージュと思われる場面も少なくなくありませんでした。

もちろんそんな予備知識無しにも十分に楽しめると思いますが、 1980年代当時を知る人やクラシックな映画を知る人にとっては懐かしくもあり、 多くの出会いと別れを重ねてきた大人には心に沁みるという、 大人向けの寓話アニメーション映画でした。