フィンランドの映画監督Aki Kaurismäkiの Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] 『枯れ葉』 (2023) [鑑賞メモ] の前作2017年作です。 当時は観なかったのですが、Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] が良かったので、 Cinema Laika 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』 [鑑賞メモ] に合わせて企画された 特集上映『アキ・カウリスマキ傑作選』での上映を観ました。
内戦のシリアを中心に大量難民がヨーロッパへ押し寄せた2015年欧州難民危機を受けた作品で、 主人公の一人はシリアを逃れ貨物船経由でフィンランドへ不正入国した Khaled。 難民申請をするも却下されて収容施設から逃亡し、極右に付け狙われ、ホームレス状態となった中、 彼を匿い雇い入れることになったのは、アル中の妻と別れ、服のセールスマンを辞めて、ギャンブルに勝った金を元手に飲食店経営者となったもう一人の主人公 Wikström。 Khaled も、周囲の助けを得ながら、ハンガリーで生き別れた妹を探し出し、妹を呼び寄せます。 そんな、難民が直面する難民申請手続きの不条理や極右による差別と、 そんな中で見せる市井の人々のささやかな思いやりや助けの手を差し伸べる様を、 Kaurismäki らしいセリフや感情表現を抑えたオフビートなユーモアを交えた演出で描きます。
といっても、難民への取調の場面で Khaled が自身の経験を語る場面や、 アレッポは安全だと難民申請却下を告げるくだりの直後にアレッポ空爆のTVニュースを見る場面を繋ぐモンタージュなど、 Kaurismäki にしてはかなり直接的な社会的コメンタリーで、そこに難民問題での不寛容への怒りが感じられました。 その一方、Khaled を助ける人々、特に、Wikström の店の店員たちの中のぶっきらぼうで不器用な人情は、 Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] における Ansa と Liisa の連帯に繋がるものを感じます。
主要な登場人物を演じた俳優がほとんど Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] に出演しているということもありますし、 初期の Kaurismäki のような救いの無さに比べささやかな人情が人を救う様の描写なども共通していて、 Toivon tuolla puolen [The Other Side of Hope] と Kuolleet lehdet [Fallen Leaves] は、 地続きの世界を描いているように感じられました。