横浜シネマリンの『柳下美恵のピアノdeフィルム vol.14』で、このサイレント映画をピアノ伴奏付きで観ました。
1930年代前半に松竹蒲田の野村 浩将 監督が磯野、三井、阿部の與太者トリオで撮ったサイレント映画「與太者シリーズ」全11作中 (ただし第11作は三井抜き、第11、12作はサウンド版) の第8作です。 第1作『令嬢と與太者』 (1931) [鑑賞メモ] では 3人は與太者本来の意味である不良青年で、彼らの更生の話でした。 しかし、シリーズもこの頃になると彼らのキャラクターの位置付けも、少しダメで悪い所はあるけれども根は良い青年となります。
この作品では、阿部こそ犯罪グループから足抜けできずにいますが、三井は元ボクサーで喧嘩早くて警察の厄介になったこともあるけれども更生済み、磯野は美術学校を目指してペンキ屋として働いています。 水久保 澄子演じるヒロイン 和子は、小学生の教師だった父を亡くし、母と貧しい二人暮らし。 和子が與太者に絡まれている所を阿部と三井が助けたのをキッカケに、 3人の小学校時代の恩師が和子の父だったこともあり、3人は和子の希望をかなえ裁縫学校に進学させます。 裁縫学校の生徒は裕福なお嬢様ばかりで和子は馴染めず、三好先生の教えもあり優秀な成績を収める物の、他の生徒に妬まれ、三好先生の立場も危うくなります。 そんな状況に対しても3人はなんとかしようと奮闘していきます。
ヒロイン和子を演じた水久保は、同年の 小津 安二郎 『非常線の女』 (松竹蒲田, 1933) [鑑賞メモ] や成瀬 巳喜男 『君と別れて』 (松竹蒲田, 1933) [鑑賞メモ] にも出演しています。 裁縫学校校長母の斎藤、校長夫人役の 飯田、ヒロインの母役の吉川、裁縫学校のパトロン近藤役の 坂本 など、松竹お馴染みの名脇役の揃っています。 そんな中では、庶民的な和装の中年女性役が多い飯田の洋装というレア物も見られます。 犯罪や犯罪組織の描写などギャング物の映画という面もありながらシリアスに過ぎず、 また、裁縫学校のそれぞれに個性的な装い華やかなお嬢様たちを演じる層の厚い女優陣もさすが松竹らしい、モダンな装いをまとった人情喜劇が楽しめました。