今年7月に亡くなったアメリカの Robert Wilson の演出による、フランスの女優 Isabelle Huppert の一人舞台です。 様式的な動きと美しい光の演出で知られる Wilson ですが、 生で観たのは Lecture on Nothing 『“無”のレクチャー』 (利賀芸術公園 利賀大山房, 2019) [鑑賞メモ] ぶりです。 演じる Isabelle Huppert は日本では映画俳優として知られますが、舞台俳優としては Ivo van Hove 演出による La Ménagerie de verre [The Glass Menagerie] 『ガラスの動物園』 (新国立劇場 中劇場, 2022) [鑑賞メモ] を観る機会がありました (このときは Huppert を特に目立たせるような演出ではありませんでしたが)。
16世紀半ばのスコットランド女王 Mary, Queen of Scots (aka Mary Stuart) が、 イングランドへの亡命の後、イングランド女王 Elizabeth I 廃位の謀略に関わったとして Fotheringhay 城で処刑されるその前夜を、 実際の書簡などのテキストを独白の台詞として用いて描いた作品です。 Wilson らしい美しい光の演出のミニマリスティックな舞台で、操り人形を思わせる動きをしながら、処刑の時間が迫る中での過去の記憶の走馬灯を、光と語りで現前したかのような、圧倒される一人芝居、約一時間半でした。
セリフは反復が多く、さらに (事前かライブか判然としませんでしたが) 録音も使って反復させていくのですか、 最初はゆっくり、後になるほど捲し立てるような語りとなり、その声の調子の変化で様相が変わっていきます。 セリフがフランス語で、かつ、字幕の位置が遠く、セリフはほとんと追えず、 女王 Mary の処刑に至る経緯の話は耳に/目に入っても滑りがちでしたが、 周囲の人物の処刑や虐殺に関わる語りの時にふっと血生臭いイメージが浮かぶことがあるくらいの語りの強さがありました。 当時の時代背景、特に当時のイングランド、スコットランド、フランスを取り巻く情勢、特に、人物の固有名詞に関する知識があれば、もっと話についていけたかもしれません。 結局のところ、侍女4人の Mary の話の方が印象に残り、歴史的証言というより私的な語りを聞くようでした。
ほとんど光の演出のみのミニマリスティックな演出でしたが、 中盤にはスモークを敷き詰め、椅子に座り、手に枝を持つような演出もありましたし、 その暫く後、台詞なしのノンクレジットの俳優で反転した鏡像のようなシルエットを作り出した場面も、幻想的でした。 象徴的な小道具としては、ヒールと、蝋燭で燃やされる手紙もありましたが、台詞が追いきれていなかったこともあり、何を象徴していたのかは掴みきれませんでした。 Huppert の演技は自然なリアリズム的なものとは対極的なもので、こわばったような手の動き、それに、まるで吊るされた人形が揺すられているかのような前後する動きもあって、操り人形のよう。 そのような形式的な動きを介して、時に彼女の置かれた立場を、時に彼女の感情を示しているようでした。