YBA&Beyond - British Art in the 90s from the Tate Collection
1980年代末に活動を開始し1990年代に YBA (Young British Artists) と呼ばれた現代美術の作家たち (Damien Hirst, Tracey Emin, etc) や、
その前後に近い文脈で活動した作家たち (Julian Opie, Jeremy Deller, etc) を特集した、
英国 Tate のコレクションに基づく展覧会です。
当時、YBAという呼称はさほど強調されていなかったように思いますが、
Real/Life - New British Art (栃木県立近代美術館, 1998)
のような展覧会である程度まとめて観る機会がありました [鑑賞メモ]。
その後も、YBAとして纏められた形ではないですが、国際現代美術展などで、YBAやその近傍の作家を観る機会はありましたが、
コンセプチュアルでビデオ等も使ったインスタレーション作品や社会問題等を取り上げるプロジェクト的な作品が並んでいるのを観ながら、
個々の作品のメッセージを受け取るというより、
当時を思い出しつつ21世紀の現代アートの前駆だったのだなあという感慨に浸るように観ました。
自分にとってYBAの衝撃は Damien Hirst などではなく、 Tracey Emin, Georgina Starr, Gillian Wearing の三人展 English Rose (The Ginza Art Space, 1998) [鑑賞メモ]。 YBA&BEYOND で取り上げられていたのは、 いずれもインスタレーションではなくビデオ作品でした。 女性の性的自己決定の困難さを主題にした Tracey Emin: Why I Never Become A Dancer (1995) こそ スポットライトとして取り上げられ大きく上映されていましたが、他は小さなモニターでの上映でした。 Gillian Wearing の作品は English Rose で観た時は良いとは思わなかった Dancing In Peckham (1994) でしたが、 観客の「人通り」の中で観ると、人通りのある中で他人には音が聞こえない状態で踊る、というコンセプトが生きます。 Tate コレクション縛りがあるので仕方ないとはいえ他にもっと良い作品があるのにと思いつつ、やはりこの3人は良いな、と。
いずれもYBAではなく、同時代の近傍で活動した作家という位置付けかと思いますが、
木製の食卓の上にスチール製のキッチン用品を並べて通電し、電球をちらつかせたりジジジジいう音を立たせたりした Mona Khatum の Home (1999) や、
Cornelia Parker の家が爆発した瞬間を凍結したかのような空間インスタレーション
Cold Dark Matter: An Exploded View (1999) など、
家庭にある不穏さを凄みのあるインスタレーションとした作品に感銘を受けつつ、
English Rose の3人だけでなく、この時代は良い女性作家が出てきていたのだなあ、と改めて気付かされました。
YBAの女性作家では Sam Taylor-Wood が代表格だったように思うのですが、彼女の作品が出ていなかったのは意外でした。
『国際芸術祭「あいち2025」―灰と薔薇のあいまに』での高精細な映像インスタレーション Vertigo Sea (2015) も印象的だった John Akomfrah の、 Black Film Audio Collective 時代の TV (Channel 4) 向けドキュメンタリー Handsworth Songs (1986) がスポットライトとして取り上げられていました。 当時、YBAの文脈にいたわけでなく、そもそも1990年代にアートの文脈で発表された作品ではないですが、現在は現代アートの文脈で活動するということで、取り上げられたのでしょうか。 Virtigo Sea とは対称的な、むしろ作り込みを避けたようなドキュメンタリーでしたが、こういう作風から始まったのか、と。 会場で上映されていたインタビュービデオで Akomfra は、新しいドキュメンタリーのあり方としてフィルム・エッセーというスタイルを採ったこと、しかし、そのスタイルもリアリティショーに取って代わられたことを語っていました。 バーミンガムの Handsworth といえば、ブリティッシュ・レゲエの曲/アルバム Steel Pulse: Handsworth Revolution (1978) を思い出します。 Handsworth Songs は1985年の暴動を扱っていて、映画の中でその言及もありませんが、Handsworth Revolution のようなアルバムが作られた背景を見るような興味深さもありました。
このように、YBA 以外の作家にむしろ興味が引かれましたが、 もちろん、Damien Hirst や Jake & Dinos Chapman のような作家のいかにも当時らしい作品や、 Freeze 誌の資料展示もありました。 同時代の作家も文脈として示しつつ狭義の YBA を再評価するというより、 YBA を核に20世紀末イギリスの当時の若手アーティストたちによる現代アートの興隆を示すいう意味で、YBA より BEYOND に重点を感じた展覧会でした。