渋谷ユーロスペースで開催されていた 『特集:ハル・ハートリー 90’sインディーズの伝説』で、 アメリカの映画監督 Hal Hartley による 1990年前後の初期三部作 The Long Island Trilogy 『ロング・アイランド・トリロジー』をまとめて観てきました。
Hal Hartley のデビュー長編です。1990年代には日本公開されず、 2014年に『ニューヨーク・ラブストーリー』の邦題で公開された際は見逃し、今回、初めて観ました。
ハーバード大学の文学部への入学資格を得られるだけの学力がありながら、 自動車修理工場を営む父にそれが認められるほどの理解も経済力もない Audury、 恋人とその父親を殺した罪による服役から釈放されたばかりの Josh の、二人の愛を描いています。 その自動車修理の腕を買われて Josh が Audry の父の工場に雇われることで2人は恋に落ちるものの父に関係を禁じられます。 しかし、二人には困難を乗り越えるようという程の積極性はなく、 Audury は学費稼ぎに知り合いのカメラマンのコネでモデルの仕事を始め家を出、 Josh は言われるままに Audury との関係を断ち仕事に専念します。 ラストは、ヌードモデルの仕事をした Audury を連れ戻すよう父から頼まれるものの、Josh はそれを果たせず。 しかし、Josh が来たことに気付いたことで Audury は彼を追い、落ち合った2人が逃避行を始めるところで映画は終わります。
続けて観た Trust とも共通する、 都市下層の居場所のない男女の不器用な恋愛をオフビートでデットパンな演出で描いたロマンチックコメディとでもいうもの。 Hal Hartley の作風の原点を見るようでしたし、そんな作風を楽しんで観ました。
日本では『シンプル・メン』公開後の1993年に公開された、長編第2作です。 公開当時に観ましたが、断片的なイメージと大まかなプロット程度の記憶で、ストーリーの細部はほぼ忘れていました。
女性主人公 Maria を演じるのが同じ Adrienne Shelly で、 腕の立つ技術者だけれども刑務所 (少年院) にいたという過去を持ち社会に居場所が無い男性主人公 Matthew の設定も The Unbelievable Truth の Josh に似ており、 The Unbelievable Truth の変奏ともいえるような映画ですが、プロットはより練られています。 聖職者のように世間離れした Josh に対し Matthew は世間とのズレに葛藤しますし、 女性主人公 Maria も望まない妊娠の結果、退学になり、父は叩かれたショックで死に、ボーイフレンドには逃げられるという、 The Unbelievable Truth の Audry より厳しい状況設定です。 2人の親がどちらもいわゆる毒親で、家庭すら安心できる場所ではありません。 そんな2人が出会い、人情、信頼といったもので繋がります。
「放っとけない」という人情やタイトルにあるような信頼を恋愛に対比させるような会話もあり、 情熱的に恋に落ちて2人で逃避行するのではなく、生活のために工場で地道に働くといった展開で、いわゆる恋愛映画をずらしていきます。 しかし、Maria や Matthew がアロマンティックなわけではなく、むしろそういうプロットも含めてデッドパンなロマンティック・コメディだったのだな、と、見直して気付かされました。 特にラスト、工場を道連れにした手榴弾自殺を試み不発により失敗した Matthew が警察に逮捕され、彼を止めようとした Audry と引き離されていく場面で終わるのですが、 そういったエンディングにむしろ、古典的とも言える最底辺の男女の不器用な恋物語、人情メロドラマを感じました。 男が警察に取り押さえられ女と引き離されて終わる 島津 保次郎『上陸第一歩』(1932) [鑑賞メモ]、 もしくはその元ネタのJosef von Sternberg: The Docks of New York (1928)) を思い出しました。
日本では最初に公開された長編第3作で、1992年公開当時に観ましたが、 Trust 同様、ストーリーの細部はほぼ忘れていました。
強盗犯罪者の兄 Bill と大学生 Dennis の兄弟が、警察に追われながら、 元大リーグ野球選手ながら革命家となり爆弾テロの罪で服役中に病院から逃走した父 (Dad) を追うという、犯罪サスペンス的なプロットです。 しかし、Hal Hartley らしく緊迫感の薄いオフビートな展開で、不器用な登場人物が繰り広げるコメディとも言える映画です。 父を追いかけて来たロングアイランドで居座ることになる酒場を経営する謎めいた女性 Kate と Bill とのロマンチックな関係や、 Kate と一緒に住んでいた父の愛人 Elina と Dennis との微妙な関係からなる、メロドラマ的な要素も感じられました。
The Unbelievable Truth や Trust では、 Adrienne Shelly 演じる Audry や Maria は主役であり、 進学や仕事の選択肢の無さ、性的搾取、望まない妊娠など、女性の生き辛さとそれらへの抗いが描かれていました。 Simple Men は、Bill & Dennis の兄弟が主役ということもあってか、 Kate や Elina の女性像が男性に都合のいい受身的なもの、母のように受容する存在になってしまったように感じました。 もちろん、「私はあなたの母ではない」的な台詞で Elina が Dennis を拒絶する場面もあり、ある程度そういう問題点を監督も意識していたのではないかと思う所もありましたが。 Bill が父と一緒に逃亡せず、Kate の元に戻り、そこで警察に連行されるというエンディングは Trust の変奏でしょうか。
3作通して観て、大掛かりな仕掛けが使えないという限られた演出を逆手にとりつつデットパンな演技からなる会話劇でオフビートさを纏っていて、 1990年代に観た時はそこに惹かれましたが、 今観ると、かなりストレートにロマンチック&人情コメディだったのだと、感慨深いものがありました。 都市労働者階級の人々の物語という印象は残っていなかったのですが、 特に The Unbelievable Truth や Trust は明らかにそうで、 労働の場面も含めて、Jim Jarmusch よりも Aki Kaurismäki に近いものを感じました。 Hal Hartley の映画をよく観ていた1990年代の時から Trust が最も好きでしたが [関連する鑑賞メモ1, 2]、 今回、The Long Island Trilogy 『ロング・アイランド・トリロジー』をまとめて観て、 Trust の良さを改めて実感しました。