TFJ's Sidewalk Cafe > Dustbin Of History >
Review: Фёдор Оцеп и Борис Барнет: Мисс Менд [Fyodor Otsep & Boris Barnet: Miss Mend] 『ミス・メンド』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2026/09/21

シネマヴェーラ渋谷で開催中の特集『ソヴィエト映画の世界』で、この映画を観てきました。

Мисс Менд [Miss Mend]
『ミス・メンド』
1926 / Межрабпом-Русь (СССР) / 251 min. / silent / B+W
Режиссёр [Director]: Фёдор Оцеп и Борис Барнет [Fyodor Otsep & Boris Barnet]
Наталия Глан [Natalia Glan] (Вивиан Менд, машинистка [Vivian Mend, secretary]), Борис Барнет [Boris Barnet] (репортёр Барнет, чемпион газетных сенсаций [reporter Barnet, the campion of newspaper scoops]), Владимир Фогель [Vladimir Fogel] (Фогель, фотограф-моменталист [Vogel, press-photographer]), Игорь Ильинский [Igor Ilynsky] (клерк Том Гопкинс [Tom Hopkins, clerk]), Иван Коваль-Самборский [Ivan Koval-Samborski] (Артур Сторн [Arthur Stern]), Сергей Комаров [Sergey Komarov] (Чиче [Chiche]) и др.

Девушка с коробко [The Girl with a Hatbox] 『帽子箱を持った少女』 (Межрабпом-Русь (СССР), 1927) など ソヴィエトのサイレント・コメディ映画で知られる (トーキー以降の作品もありますが) Борис Барнет [Boris Barnet] [関連する鑑賞メモ] の初監督作品にして、出演もしたサイレント映画です。 Братья Стенберг [Stenberg Brothers] [鑑賞メモ] の手がけた映画ポスターも素晴らしく、観たいと思つつも未見でした。 実は、2009年に Fricker Alley からリリースされたDVDを持っているのですが、3部構成で4時間半弱という長さに腰が引けて積観になっていたのでした。 これも一気に通して観る良い機会かと、足を運びました。 今回の上映は字幕を英語版に差替えた上に日本語字幕も付け、録音の音楽付きで、全3部を2回の休憩を挟んで上映しました。 Robert Israel の音楽と英語字幕の付いた Fricker Alley のDVDの元となったデジタル版がベースかと推測します。

ジャーナリスト3人組がブルジョア Stern 氏の所有する工場で秘書として働く Miss Mend こと Vivian と共に反ボルシェビキの陰謀組織と闘う冒険活劇というかアクションコメディです。 前半の舞台は西側の国 (レニングラードまで頻繁に船が行き交う距離感ですので、バルト海か北海の沿岸でしょうか) で、 Vivian は労働運動にも積極的に参加し、争議中の警官との衝突時に、通りかかったエンジニア Johnson 氏 (実は Stern 家の後継 Arthur) に助けられ互いに恋に落ちます。 一方、反ボルシェビキの陰謀組織を率いる Chiche は Stern 氏へ近づき、その遺産を狙ってボルシェビキの仕業にして Stern 氏を謀殺します。 特ダネとして Stern 氏謀殺の裏を追うジャーナリスト3人組が、Vivian を助け、 第3部では、Chiche 率いる陰謀組織がロシアで実行しようとしている生物兵器テロを防べく、ロシアに渡り奮闘します。

しかし、3人のジャーナリストが奮闘する動機も社会正義というより特ダネを取るためですし、Vivian から見て少々頼りない点もコメディ的です。 その性格付は、かっこいいメインキャラの記者 Barnet、神経質そうで陰のあるサブキャラなカメラマン Vogel、コメディリリーフ担当の事務員 Hopkins という鉄板のトリオ編成。 一方の、映画監督としても知られる Сергей Комаров [Sergey Komarov] 演じる Chiche も少々表現主義映画がかった演技も含めていかにも狂気の科学者で、その動機も反ボルシェビキというより己の探究心のため、その研究施設もいかにも「悪の組織」です。 制作の都合上か時代的な背景か、資本家対ボルシェビキという構図が背景にあるものの、プロパガンダ色は薄く、実際の所は日本の特撮の戦隊物やアメリカン・コミックのヒーロー対ヴィランと大して変わりません。

アクションについては、アヴァンギャルド的と感じるほど極端な画角やモンタージュは感じませんでしたが、 モダンな演出で、乱闘、街中での捕物騒ぎや、車を使ったアクションはもちろん、 港や船上の場面が生かされ、水落ちのシーンが多用されていたことが印象に残りました。 もちろん、アクション一点張ではなく、 Vivian と Johnson (Artur Stern) の対立陣営間でのロマンス (Romeo & Juliette 的な悲劇展開の予想に反して、結局 Johnson は闇堕ち)、 Vivian と息子同然の甥 (Stern 家でメイドしていた妹が手篭めにされてできた子で、妹は殺され、それが遺恨となっていることが中盤で明かされる) のエピソードや、 ロシアの港町での Vogel と浮浪児との交流など、人情味を感じる展開もあり、4時間半、飽きさせません。 特に、Vogel 演じる Владимир Фогель [Vladimir Fogel] はアヴァンギャルド期のソヴィエト映画に多く出演していて以前から好きな俳優でしたが、アクションよりこういう屈折した人情味を滲ませる演技が合う俳優だと改めて実感しました。