2003/12 の Billy Bragg に関する発言の抜粋です。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 古い発言ではリンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。
少し前の話ですが、1980年代初頭に登場した England のシンガーソングライター Billy Bragg が、 Must I Paint You A Picture: The Essential Billy Bragg (Limited First Edition) (Cooking Vinyl, 2003, COOKCD266X, 3CD) という、ベスト盤をリリースしています。 最近でこそレビューとかしなくなってしまいましたが、一応、 Billy Bragg & Wilco 名義を含めて 1stアルバムから全てのアルバムを買ってきているし、 シングルも主要なものは押さえてるので、 ベスト盤は要らないなぁと思っていたのですが。 初回限定でレアトラック集のボーナスCDが付いたので、結局買ってしまいました……。 Billy Bragg が限定商法するとわ。しくしく。 ま、CD 3枚でもレギュラー盤CD程度の値段 (2,000円余り) だったので、 ボーナスCDだけ買ったと思えば……。 以前にも、Reaching To The Converted (Cooling Vinyl, COOKCD186, 1999, CD) (レビュー) というレアトラック集をリリースしてますが、曲の重なりは無いですし。
ベスト盤のリリースに先だって、自分のサイトでファンによる曲の投票をしていたのですが、 結局、その投票結果をそのまま収録曲に反映させた、というわけではなさそうです。 ちなみに、1枚目が4thアルバム Workers Playtime (1988) まで、 2枚目が5thアルバム Don't Try This At Home (1992) 以降、 という内容になっています。 どうして収録されてないのかー、と思う曲が無いわけじゃないですが、 ま、廉価ですし、入門にはいいのかもしれません。 初期の方が好きですし、ギター一本の方がかっこいいと思っているので、 収録曲からしても初期ベスト的な意味合いもある Billy Bragg, The Peel Session Album (Strange Fruit, SFRCD117, 1992, CD) (レビュー) を入門盤として薦めたいところもありますが……。
Billy Bragg は、Don't Try This At Home (1992) の頃まで、 一曲一曲歌詞を噛みしめるようにして聴いていたところがあって、 初期の彼の歌詞についてならいくらでも語れるような気がする程です。 Billy Bragg って、「政治的」というパブリックイメージがとっても強い人ですが、 実際はラブソングが多いんですよ、それも、セックスにも言及する曲すらけっこうあります。 そして、それがいいんですよね。 快楽主義的なものじゃなくて、 ミクロポリティクスとしての男女関係を歌うようなものなのですが。 けど、post-punk 期の Au Pairs や Gang Of Four のような 反ラブソングとして不快なセックスを歌うというのとも違う感じで。 ちょっとロマンチックだけど無器用な感じを、ユーモアを持って描くような。 僕は、The Smiths の Morrissey の歌詞にも近いものを感じてましたし、 むしろ、Billy Bragg の歌詞の方が好きだったりしました。 そういえば、1980年代後半頃に音楽雑誌に載った Morrissey のインタビューで、 「いつも Morrissey でいることは大変だろう、と Billy Bragg が言ってましたが」と インタビュアに振られて、 「いや、いつも Billy Bragg でいることの方が大変だと思うよ」と切り返していたのを 思い出したり。 (あれ…、Morrissey と Billy Bragg は、逆だったかもしれないです。記憶が曖昧です。)
1st アルバム Life's A Riot With Spy Vs Spy (Utility, UTIL1, 1983, LP) で一番好きなラブソングは、 やはり、"A New England" でしょうか。 もちろん、Marx のテーゼを意識したかのような 「僕は世界を変えたいわけじゃない / 僕は新しいイングランドを待ち望んでるわけでもない / 単に新しい彼女が欲しいだけなんだ」 というリフレインも好きではあるんですが。 「ひとは僕に「いつになったら一人前になるんだい」というけど / 高校時代に僕が好きだった女の子たちはみんな / もう乳母車を押してるよ」 みたいな状況描写が巧いよなぁ、とか思っていまいます。 けど、実は、もっとたわいなくダンスパーティに尻込みする男の子を歌った "Lover Town Revisited" のような歌も好きだったり。 「いずれにせよダンスパーティでの戦いは始まる / そんなとき、僕は立ち止まって考えてしまうときもある / 追い返されてしまうときもある / けど、たいていは逃げだしてしまう」 なんてオチのフレーズを最後に畳み掛けるように歌うのがいいんですよね。 こういうダメさって、Morrissey ぽいって思うんですけどね (Holden Caulfield っぽいって話も)。
2nd アルバム Brewing Up With Billy Bragg (Go! Discs, AGOLP4, 1984, LP) はあまりラブソングが多くないのですが。 けど、名曲 "A Lover Sings" がありますね。 「公園での散歩 / カーペットの上でのキス / そして君のかかとにからまったタイツ / 夜遅く、恋する人はそういったことについて考える」 みたいな描写が巧いと思うし、アダムとイブからテレサとスティーヴに落すところも好きです。
3rd アルバム Talking With The Taxman About Poetry (Go! Discs, AGOLP6, 1987, LP) は、イタいラヴソング満載のアルバムで、 Billy Bragg のアルバムの中では僕が最も好きなものです。 Billy Bragg の歌の中で最も好きなものを挙げろといわれたら、 このアルバムのオープニングの曲 "Greetings To The New Brunette" を迷わず挙げます。 といっても、セックスを "ideological cuddle" と歌うセンスは、 これがリリースされた当時20歳だった自分にはまだ難し過ぎで、むしろ後にじわじわ効いてきたように思いますが。 むしろ、リリースされた当時に最も好んで聴いていたのは、 "Honey I'm A Big Boy Now"。 「彼女は掃除料理洗濯 / その合間に他のあらゆることをやろうとした / そして僕は馬鹿のようにそこに座り / 彼女にやらせていた」 そんな男が、逃げられた妻に呼びかける歌なのですが。 その呼びかけのキメ台詞が可笑しいんですよね、 「けど、今僕は一人で食事もできるし着替えもできるし洗い物もできる / 明りを消して寝ることだってできる / ねえ、今や僕は大した男になんたんだよ」。 こういう歌って、心を込めて歌うほどに惨めなものになっていく、って感じで好きだったりします。
4th アルバム Workers Playtime (Go! Discs, AGOCD15, 1988, CD) には、 Billy Bragg してはストレートなラブソング "She's Got A New Spell" とか、 post-punk らしい政治・経済・恋愛の三題噺 "Valentine's Day Is Over" とか、 良いラブソングが収録されてますが。僕が最も好きな歌は、 "The Short Answer"。 「辞書の "Marx" と "marzipan" の間にあるもの、それが "Mary" だ」という掴みからして完璧。 同棲を解消することになった相手 "Mary" に歌いかける歌、という内容よりも、 描写がいちいち面白く感じられる歌です。 「学校からの友人は皆 / 僕に連れを紹介する / 一方僕はここに立ちつくしてる / 両手をズボンの前に垂らして」とか、 こういう居場所の無さを歌うのが Billy Bragg って巧いなあ、と思います。
5th アルバム Don't Try This At Home (Go! Discs, 828 279-2, 1991, CD) 以降となると、 Billy Bragg の良いラブソングって思い浮かばなくなるんですよね。 もしかしたらラブソング自体が減っているのかもしれないですが、 自分の聴き方も変わったということもあるのかなぁ、とも思ったり。 メッセージソングにしてもラブソングにしても、 歌詞で歌われるようなことに対して自分が枯れてきたということもあったのかもしれないですし。 そもそも、1990年代に入ってだんだんと歌詞無しの音楽に聴く比重が移ってサウンド重視の聴き方になったように思いますし。 ちなみに、このアルバムで最も好きな歌は "Everywhere"。 って、これは Billy Bragg 作の歌じゃないのですが。 ちなみに、太平洋戦争中の日系人の強制収容に関する歌です。
しかし、最近、歌詞無しか歌詞があっても伝承的なものを聴いていることが多く、 歌詞について語ることをしなくなって久しかったこともあり、 書き出したら止まらず、つい長くなってしまいました。うーむ。 というか、久々に、4th までの4枚のアルバムを通して聴き続けてしまいましたよ。 やっぱりいいなぁ。く〜。 Billy Bragg を聴いたことも無い人がこれを読んでも、という気もしますが……。