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The Dixie Chicks, "Not Ready To Make Nice" について

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[1613] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Apr 20 23:31:37 2006

イラク戦争に際してアメリカ (US) Bush 大統領を批判して大バッシングに遭った テキサス (Texas) 出身の country 女性3人組 Dixie Chicks が 新作 Taking The Long Way (Sony Nashville, 2006) をリリースするそうです。 (当時のバッシングの背景については、 ポール・クルーグマン 「影響力の伝達経路」 (2003/3/25) をお読み下さい。) 正直に言って Dixie Chicks の音楽にはあまり興味無かったのですが、偶然目にした 「美女3人のカントリー・バンド、ディクシー・チックス新作発表」 (『CDジャーナル』, 2006/4/20) の記事が噴飯ものだったので、思わず引用。

前作リリース後、イラク戦争に関してブッシュ米大統領を批判したため、本国米国では凄まじいバッシングを浴びることに。音楽とは関係のないところで注目を浴びてしまったことは、彼女たちの本意ではなかったでしょう。 純粋に音楽を聴けば、充分に魅力的なことは明白。カントリーとは言え、至極キャッチーなメロディに溢れており、ポップスと呼んでも差し支えのないものです。 すでに公式HPなどでは1stシングル「Not Ready To Make Nice」が公開されており、叙情的で親しみやすいメロディをじっくりと聴かせてくれます。アルバムへの期待を高めるには絶好の1曲でしょう。

ちなみに、新曲、"Not Ready To Make Nice" の歌詞は、 「ディクシー・チックス、最新曲をサイトで公開中:「私はまだ怒ってる」」 (『暗いニュースリンク:デイリー・ブリーフィング』, 2006/03/24) も伝えるように、 以下のような内容です。

愛想良くするなんてムリ / 引き下がるつもりもない / だって私はまだ怒ってるもの
I'm not ready to make nice / I'm not ready to back down / I'm still mad as hell

3月24日の時点で『暗いニュースリンク』は「再び物議を醸すに違いない曲」と予想していましたが、 イギリス (UK) では高級一般紙2紙で "Dixie Chicks turn death threats to song" (The Guardian, 2006/3/25; 「Dixie Chicks は (バッシングの際の) 身の危険を歌にした」) や "Dixie Chicks: They're back and this time they're really angry" (The Independent, 2006/3/25; 「Dixie Chicks: 彼女たちが帰ってきた。それも今度は本当に怒って」) と 報じられています。 しかし、これらの記事によると、 今だに彼女たちの曲を拒否しているラジオ局がテキサスにはあるんですね……。 また、今検索していて気付いたのですが、アメリカの独立系音楽 e-zine Pitchfork"Track Reviews (2006/4/3)" でも "Not Ready To Make Nice" のレビューはこう締めくくられています (引用者訳)。 Pitchfork のレビューで気付いたのですが、 新作 Taking The Long Way の制作は Rick Rubin (Wikipedia の項目) なんですね。ちょっと聴いてみたくなったかも。

"Not Ready to Make Nice" では、失ったファンを取り戻すことも 共和党支持州でのラジオ局での放送を「得票」することも、あり得ないだろう。 けど、それがどうしたというのだ。 Dixie Chicks は闘いの備えができているように聴こえる。 そして残念なことだが、おそらく彼女たちは闘いに備えているに違いない。
So what if "Not Ready to Make Nice" isn't likely to win back alienated fans or garner red-state radio play? The Dixie Chicks sound ready for a fight, and sadly, they probably should be.

こういう記事を読んで彼女たちも"漢"だなぁと感心していただけに、 『CDジャーナル』の記事 の言う「彼女たちの本意」というのは、 実際は、さほど政治的主張の無い美女3人組によるキャッチーなポップスとして売りたいという プロモーション上の都合ではないのか、と、 思わずツッコミ入れたくなくなってしまいました。 それも、ミュージシャン本人や契約元のレコード会社 (Sony Nashville) の意向ではなく、 むしろ、日本側のレコード会社の意向のようにも思われます。 なぜなら、英米の記事では、むしろ彼女たちの怒りや闘う姿勢が前面に出ているからです。

この『CDジャーナル』の記事は (この記事に限らないことですが)、 いかにも日本のレコード会社の作ったプレス資料だけを参考に書いたという感じのもので、 ツッコミを入れるまでもないのでしょうが……。 約1年前にあった 「オレの書いた「スターウォーズ」評を配給会社が検閲!」 (『ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記』, 2005/06/11; フォローアップ記事: 「日本の宣伝部によるスターウォーズ記事検閲について」) のことを思い出したので。 『CDジャーナル』の Dixie Chicks 記事の場合は何を検閲したわけでもないですが、 町田氏の話にある「政治的な部分はカット」、「アメリカではOK」、 そして「ルーカスの意向」/「彼女たちの本意」のあたりに、 共通する所が多くあると感じたので。 ま、欧米の音楽の欧米での評価/紹介のされ方と日本でのそれに違いがある (というか、イイカゲンな形で紹介される) ことが少なくないのですが、 これはとても判りやすい良い例かしらん、というのもありますが。

しかし、「さほど政治的主張の無い美女3人組のキャッチーなポップス」よりも、 「Rick Rubin 制作による怒れる女性3人組の闘う新作」みたいな方が、 ずっとアピールするように思うのですが……。 僕は『CDジャーナル』のような記事を読んでも聴いてみたいとは思わないですし、 むしろ、Pitchfork のレビューを読んで聴いてみたくなったんですけど。 って、そんなのは僕だけか……。