開発途上国の成長からも取り残された10億人の人々が暮らす最貧国の問題点を、 統計データに基づく最新の研究成果に基づいて示し、その解決策を提言した本です。 統計データの分析からステロタイプな (もしくはイデオロギー的な) 最貧国のイメージを覆し、最貧国を捕えている罠を以下の4点に纏めています: 紛争、天然資源、内陸国、小国における悪いガバナンス。 また、このような分析をベースに以下の4つの解決策のあり方を提言しています: 援助、軍事介入 (安全保証)、法と憲章、貿易政策。 議論が実証的で、とても説得力を感じる本でした。
この本について取り上げたブログのエントリでお薦めなのは、 「コリアーとサムラ」 (『梶ピエールの備忘録。』 2008-07-03)。 シエラレオネ (Sierra Leone) 出身でイギリス (UK) の Insight News TV を拠点に活動する ジャーナリスト Sorious Samura の取り上げるテーマと、 Collier の挙げる4つの罠の直接的な対応関係の指摘に、なるほど、と。 もちろん、アフリカの最貧国の問題を扱っている以上、 よほどピント外れなドキュメンタリーでない限り 4つの罠に関係する面が多少は含まれることになるとは思いますが。
Sorious Samura (⇒ en.wikipedia.org) のドキュメンタリーは 『シエラレオネ 血塗られたダイヤ』 (Blood on the Stone, 2006)、 『体験ルポ 賄賂 (わいろ) 社会の実態』 (Living with Corruption, 2008) の2本しか観ていませんが、いずれも、第三者の視点から描くのではなく、 Samura 自身が体をはって体験してみせるものです。 それも、例えば、『シエラレオネの血塗られたダイヤ』では、 ダイヤを含む泥を汲み出す仕事までやってみせるという徹底ぶり。 そこが面白いドキュメンタリーです。 アフリカ出身者がアフリカの問題に取り組んでいるからできるスタイルだと思いますが。 機会があったら是非観ることをお薦めします。 こういう面白いテレビ番組は、 『BS世界のドキュメンタリー』 で時々こっそり放送するのではなく、ぜひ地上波で放送すべき、僕も思います。 ちなみに、Samura は数々の賞を受賞している有名なジャーナリストですが、 2004年には彼の番組がNHK日本賞の グランプリ日本賞 を受賞しています。
統計データに基づいて客観的分析的に最貧国の問題を描く Collier の本と、 現場に飛びこんで自らの体験を通して最貧国の問題を描く Samura のドキュメンタリーは、 そのテーマが重なっているだけに、最貧国の問題を理解するのに とても良い相補関係になっていると思います。併せて是非。
シエラレオネ (Sierra Leone) 出身でイギリス (UK) の Insight News TV を拠点に活動する ジャーナリスト Sorious Samura の話のフォローアップ。
2006年3月に Norwich Fair Trade Festival で Samura と Insight News TV のエグゼクティヴ・プロデューサ Ron McCullagh を 招いてのシンポジウム "Media in International Development" があったそうなのですが、 日本語でそのレポートを書いているブログを見付けました: 「シンポジウム "Media in International Development"」 (chieee 『Hush!!』 2006-03-14)。 いろいろ興味深い内容です。
Samura のドキュメンタリーはリアリティ・ショー (reality show) の手法を採っている、 というのは、en.wikipedia.org のエントリにも書かれているわけですが、 これは他からの指摘なのかなと思ったのですが、ここらは本人も意識的のようですね。なるほど。 このような体験取材に伴うリスクの話も興味深いです。
Collier と Samura のアプローチって正反対だとは思っていましたが、 「統計データをほとんど引用しない」というのは、言われてみればそうだな、と。 しかし、問題意識を高めたところで、 善意だけでは救えないというのは Collier の本が指摘する所でもあって、 やはり、Samura のドキュメンタリーでその現実を見つめつつも、 Collier の本で問題の客観的な理解を補完する、というのが良いのでしょう。
金曜の渋谷所沢往復の電車内が良い読書タイムになったこともあり、 週末に読了したこの本について。
The Economist の元アフリカ特派員の著者によるアフリカの貧困問題に関するルポルタージュです。 本書中何カ所かで「世界銀行での研究報告」への言及があるのですが、 これは、Paul Collier の研究のことですね。特に第2章は巻末注で 「本章は、世界銀行の多くの研究報告で筆頭執筆者を務めたエコノミストの ポール・コリアーの仕事に多くを負っている。」と書いています。 このコリアーの研究を単行本にまとめたのが、 一ヶ月ほど前に読書メモ したポール・コリアー 『最底辺の10億人』 (日経BP社, 2008) です。
『最底辺の10億人』はルポルタージュ的な個別のエピソードを排して、 統計的なデータを通して問題点を浮かびあがらせていく本でしたが、 『アフリカ —— 苦悩する大陸』は 通常のルポルタージュの形式で書かれています。 『最底辺の10億人』には具体的エピソードが無くて物足りない、 もしくは、説得力を感じられない、という方は、 『アフリカ —— 苦悩する大陸』を併読すると良いのかもしれません。 The Economist らしい ネオリベラル的な書き方が少々気になりますが……。
もちろん、『最底辺の10億人』では取り上げられなかった問題も取り上げてます。 「コリアーとサムラ」 (『梶ピエールの備忘録。』 2008-07-03) で 「この4つの罠にあと一つあえて付け加えるとしたら」と挙げられていた 「性感染症の罠」についても、 『アフリカ —— 苦悩する大陸』は一章を割いています。
しかし、このようなルポルタージュの形式というのは、 問題の理解に良いのか悪いのか微妙な所がありますね。 この本の第7章の中で、著者は 「欧米の企業が第三世界の従業員を搾取していると信じて疑わない ジャーナリストはいくらでもいて」と指摘し、 「私もこんなふうに記事を書くこともできただろう。」 とその書き方を真似てみせています。 結局のところ、現地に行って見聞きしたことを 書くということだけではだめ、ということなのでしょう。 この本の良い所は、コリアーの研究等にあたり、 それを現地での体験と摺り合わせ描いている所なのかな、と。 なんてことを考えてしまうのも、 「[大阪府立国際児童文学館関連]今回の場合、「隠し撮り」が問題だというよりも」 (『宮本大人のミヤモメモ』 2008-09-07) ようなことが頭にあったり……。 「なまじ自分は自分の目で見た、という自信を持ってしまう分、現場視察主義はかえって判断を誤る危険を高めかねない」というか。