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ポール・クルーグマン「征服と無策」

原文: Paul Krugman, "Conquest and Neglect"
Originally published in The New York Times, 4.11.03
訳: 嶋田 丈裕 <tfj@kt.rim.or.jp>
2003/04/13: 初版を公開 | 2003/04/14: あくびさんのコメントを参考に修正 | 2003/04/14: 言い回しを推敲

概要:ブッシュが何かを勝ち取ったときはいつも、それを無駄遣いし、それに対する責任を放棄する。イラクについても同様になるのだろうか?

正しいものは正しい。 正確に誘導されたブドウ弾の一発がサダム・フセイン (Saddam Hussein) 体制を崩壊させるだろう、とタカ派が言ったのは正しかった。 しかし、この戦争に懐疑的な人々だって、軍事的な勝利は予想していたのだ。 (「もちろん、我々は戦場で勝利するだろう。それも、たぶん簡単に。」というのが、私の戦争開始時のコラムの書き出しだった。) それどころか、我々は心配していた ―― そして今でも心配し続けている ―― その後に続くことを。 もう一人の懐疑論者であるオンラインマガジン『スレイト (Slate)』のマイケル・キンズレイ (Michael Kinsley) は昨日こう書いていた。 「それは間違っていたと判明してほしいと思う。しかし、それはまだ起きてもいないのだ。」

どうして、心配するのか。 イラクの人々の気持ちをよく理解しているふりをするつもりはない。 しかし、将来に対して幸先良くないブッシュ政権の仕事の仕方のパターン ―― 征服とそれに続く有害な無策というパターンがあるのだ。

ブッシュ政権の人々は征服、軍事、政治がとても巧い、ということは認めなくちゃいけない。 彼らは自身の注意を全てある一つの問題に向け、最大限の努力をし、ルールを破ることすら厭わない。 このテクニックは、フロリダでの再集計での勝利を、2001年の減税の議会通過を、カブール陥落を、中間選挙での勝利を、そして、バグダッドの陥落を、彼らにもたらした。

しかし、勝利の後、勝ち取ったものの面倒をみる段になると、彼らの注意はどこかに行ってしまい、物事は駄目になってしまう。

最も判り易い例はブッシュ政権が忘れた国アフガニスタンだ。 国土の大半は、原理主義者の軍閥の支配下に戻ってしまった。 給与が支払われない兵士や警官は、どんどん仕事を放棄している。 (ブッシュ政権が最新の予算でアフガン援助を計上し忘れたことを思い出そう。)

ハミド・カルザイ (Hamid Karzai) 大統領の弟アーメド・ワリ・カルザイ (Ahmed Wali Karzai) は、AP (Associated Press) 通信社のレポーターにこう言った。 「まるで私は同じ映画を二回見ているようだ。誰も問題を解決しようとしない。 タリバン (Taliban) の崩壊でアフガニスタンの人々に約束されていたのは、希望と変革の新しい生活だった。 しかし、何がもたらされた? 何ももたらされなかった。 全てはいつもどうりに戻ってしまった。」

同じパターンが経済分野でも見られる。 ブッシュ大統領は2001年に大規模な減税を押し通すことに大成功した ―― 彼の計画は経済的な病を治すための薬に過ぎないと主張して。 しかし、それからどうなった?

次第に景気は壊滅的になってしまった、というのがその答だ。 2002年の頭には高成長の四半期があった ―― そして、政策の成功に対する雄叫びが上がった。 しかし、その後、景気は着実に悪くなった。 職を生み出せなくなるほど、成長は鈍化した。 2002年 ―― 「景気回復」の年の翌年 ―― の末には、2001年の末よりも労働者の数は少なくなった。

そして、最近2ヶ月、状況は急速に悪化してしまった。 2月3月の間に、米国経済は46万5千の職を失った。 公式には2001年3月に始まったとされる景気後退以来、失われた職の総数は、2百万に上った。

この時点で、最初のブッシュ政権の期間に起きた景気の落ち込みのときより、雇用の減少は大幅で長期にわたるものになってしまった。 そして、景気上昇の兆しは無い。 失業保険の新規未収保険金は、いまだに労働市場の改善を示すレベル以上になっている。

景気は自然に好転するだろう ―― 戦争は終ったと安心して、消費者や企業は大いに消費しはじめるだろう、と希望を持っている人もいる。 しかし、希望は計画ではない。 それではどんな計画があるのだろうか?

経済について何も計画がなされていないというのが、その答のようだ。 それどころか、ホワイトハウスは次の政治的勝利 ―― 株式配当に対する減税 ―― の達成に執着している。 そして、それは現在の経済的な困難にほとんど関係無いか全く関係が無いものなのだ。

経済分析を通して、無関係であることを私は示してもいい。 しかし、ここでは、政治的な面からのヒントだけ言っておこう。 議会での財政赤字への懸念に直面して、ブッシュ政権は配当減税案の段階的導入を検討してもよいと示唆した、と『USAトゥディ (USA Today)』は伝えている。

つまり、即時の減税 ―― 今経済を実際に救うかもしれないとしていた提案一組 ―― は見送ってもよい、と。 長期的な提案を無傷にしておくことができるようにするために、したがって完全勝利を宣言できるようにするために。

恐ろしいことは、この政権運営の焼畑式アプローチは、ブッシュ政権にとって都合の良いものであり続けるかもしれないということだ。 なぜなら、マスコミに大きく取り上げられるのは最初の勝利だけだからだ。 そして、不幸なことに、世界じゅうの残りの人々は、残された瓦礫の中で生きなければならない。


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嶋田 丈裕 / Takehiro Shimada (a.k.a. "TFJ" or "Trout Fishing in Japan") <tfj@kt.rim.or.jp>