記事一覧

ピアジェが新たなコレクション、ヴィンテージ着想のトラペーズ型トリビュート。

現代の市場はラウンド型(それとオクタゴン型)ケースで飽和状態にあるが、ピアジェの新作シックスティは大胆なデザインの復活に説得力を持たせている。台形のケースを採用したこのモデルは、メゾンが最も実験的だった1960年代後半をほうふつとさせる。当時のピアジェは、ウォッチメイキングとファッションの境界を曖昧にしていた時代であり、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のようなカルチャーアイコンの注目を集めた時期でもあった。ウォーホルが愛用していたのは、ゴドロン装飾と独創的なシルエットを持つピアジェウォッチであり、今回の新作はまさにそのモデルに着想を得ている。

シックスティのケースサイズは29mm×25.3mm、厚さはわずか6.5mmだ。このプロポーションは、内部に搭載されたスリムなクォーツムーブメントと、ウルトラスリムウォッチ製造におけるピアジェの長年の技術力によって実現されたものである。サイズ感とスタイリングの両面から見ても明らかにレディスウォッチではあるが、そのケースシェイプはコレクター心をくすぐる魅力に満ちている。柔らかく丸みを帯びたコーナー、繊細なアシンメトリー、そしてヘアライン仕上げとポリッシュ仕上げの織り成す奥行きあるコントラストがその特徴だ。ケース素材はステンレススティールと18K4Nピンクゴールドの2種類でラインナップ。単一素材のモデルに加え、ツートン仕様も用意されている。2モデルには51個(計0.52ct)のブリリアントカットダイヤモンドをセッティングしたベゼルが採用されており、ケースとダイヤルの建築的なコントラストをさらに際立たせている。

4つのリファレンスすべてに共通するのは、光を放つホワイトサテン仕上げダイヤルである。縦方向に施されたヘアラインが光をとらえ、ベゼルに刻まれたゴドロンのようにそれを巧みに反射・拡散させる。この意匠は、アンディ・ウォーホルが愛用していた1970年代のピアジェモデルへの静かなオマージュとなっている。バトン型の針とアプライドのゴールドインデックスに、ローマ数字をアクセントとして配したダイヤルは、個性的なケースシェイプに反して、パネライ スーパーコピー驚くほどクリーンなレイアウトに仕上がっている。シックスティのブレスレットはSS、ゴールド、またはツートンのいずれかで構成されるトラペーズ型リンクを編み込むように配したデザインが特徴的で、その一体感ある造形が際立っている。アンラウンドケースにもかかわらず、装着感は実にシームレスだ。加えて隠しプッシュボタン式のフォールディングクラスプにより、セキュリティと視覚的な一体感が両立されている。

Piaget Sixtie
我々の考え
1969年、ピアジェはジャン=クロード・ギュエ(Jean-Claude Gueit)がデザインディレクションを手がけた“21世紀コレクション”を発表した。彼は、時計をジュエリーオブジェとして再定義する上で重要な役割を果たしたビジョナリーである。このコレクションではカフやソトワール、そしてもちろんトラペーズといった、従来の枠にとらわれないシルエットが登場し、ウォッチメイキングとハイファッションの境界線が曖昧になった。新作シックスティは、この台形美学を現代に蘇らせたものであり、ピアジェのアーカイブにとどまらず、その時代全体のデザイン的影響をも反映している。たとえばYSLのトラペーズドレス、ミッドセンチュリーモダンの建築的ダイナミズムを思い浮かべる。

55年の時を経て、ピアジェは自らの黄金時代に敬意を表している。まるでミニ・アンディ・ウォーホル・ウォッチのようなこれらの新作は、1970年代の大胆なクリエイションに対するアシンメトリックなオマージュであり、そのスケールはやや控えめに再解釈されているとはいえ、その精神は確かに息づいている。このトラペーズ型のフォルムは、あえてニッチであることを貫く姿勢が印象的で、メゾンの中核コレクションとしては大胆な選択だ。ラウンドケースの復刻モデルであふれる市場において、シックスティはまさにデザインにおける勇気を思い出させてくれる鮮烈で爽快な一撃である。

基本情報
ブランド: ピアジェ(Piaget)
モデル名: シックスティ(Sixtie)
型番: G0A50300(SS)/G0A50301(SS×PG)/G0A50302(PG)/G0A50304(PG、ダイヤモンドベゼル)

直径: 29mm×25.3mm
厚さ: 6.5mm
ケース素材: ステンレススティール/ステンレススティール×18K 4Nピンクゴールド/18K 4Nピンクゴールド/18K 4Nピンクゴールド(ダイヤモンド付き)
文字盤: ホワイトサテン仕上げ
インデックス: アプライド
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: SSまたはPGまたはツートンのブレスレット、プッシュボタン付きフォールディングクラスプ

Piaget Sixtie
ムーブメント情報
キャリバー: 57P、クォーツムーブメント
機能: 時・分表示

価格 & 発売時期
価格: SSモデルが169万8400円/SS×PGモデルが198万円/PGモデルが479万6000円/PG、ダイヤモンドベゼルが567万6000円(すべて税込)
限定: なし

新しい脱進機、一体型ブレスレットを備えたロレックス ランドドゥエラーと、

ロレックスがスカイドゥエラーを2012年に発表した際、バーゼルワールドのロレックスブース前には報道陣が押し寄せ、にわかに熱気を帯びていた。ショーウィンドウにはサブマリーナー各種が美しくディスプレイされ、その隣にはひときわ背の高いスタンドがシルクの布で覆われていた。それが何かは明かされていなかったが、明らかに“特別な何か”であることは誰の目にも明らかだった。ショー初日、予定された時刻になるとその布が厳かに取り払われ、姿を現したのがスカイドゥエラーだった。

ロレックスが前回、まったく新しいモデルを発表したときにはシルクのカバーが使われていた。

ロレックスコピーが“スカイドゥエラー”の商標を出願したとき、時計業界のインターネット界隈は騒然となった。これは何を意味するのか? どんな時計になるのか? 予想記事や憶測が飛び交い、期待と好奇心が渦巻いていた。だが正式発表までのあいだ、スカイドゥエラーの画像も動画も一切公開されることはなかった。その実態を知る者は誰ひとりいなかったのである。そしてついに、あのシルクのカバーが持ち上げられた瞬間、ロレックスは見事に革新を成し遂げていた。しかし目の前に現れたその姿に、多くの愛好家たちは困惑した。「これは一体、どう受け止めればいいのか?」という空気が、その場には確かに流れていた。

2025年現在、ランドドゥエラーの発表に先立って行われたのは、商標および特許の出願、6枚ほどの“リーク”画像の流出、公式Instagramアカウント(@rolex)によるティザー投稿、数媒体への事前アクセスの付与、ロジャー・フェデラー(Roger Federer)によるInstagramフィードへの“さりげない”投稿、そしてジュネーブ時間午前0時1分への直前の発表解禁時間変更であった。もはやシルクの布とはかけ離れたアプローチである。ロレックスは数十年来のモデルに少しずつ改良を加えていくスタイルで知られるブランドであり、完全な新作を発表する際には慎重さが求められる。しかし、今回はその“お決まりの流れ”を覆すような発表手法がとられた。これはまったく新しいモデルに対する打ち出し方として、極めて理にかなっていると言えるだろう。

A Rolex Land-Dweller in steel
まったく新しい製品に対する、まったく異なるリリース戦略。それが今回のランドゥエラーで見られたものだ。しかし時計愛好家たちの反応はというと、どこかスカイドゥエラーのときと重なるものがある。つまり技術的な革新に対しては敬意を表しつつも、デザインや価格設定に対しては戸惑いを隠せない。そんな空気が広がっているのだ。

Watches & Wondersでは毎年のように、シルクのカバーが外された瞬間や情報解禁のタイミングで、ロレックスがいかに保守的なブランドであり、時計業界の“基準”となるモデルを数多く擁しているかを改めて思い知らされる。新色の追加、ムーブメントの改良、既存モデルのバリエーション展開。そうした発表がショーの中心を占めるのが常だ。それでも、時折ロレックスは私たちに思い出させてくれる。マスターズや全仏オープンの中継で耳にする“Perpetual Excellence(永続する卓越)”という言葉が決して飾りではないということを。

A Rolex Land-Dweller in steel
左はエバーローズゴールドにバゲットダイヤモンドのダイヤルとベゼルを備えたランドドゥエラー 36、右はプラチナ製のランドドゥエラー 40。

ランドドゥエラーのようなモデルが発表されるような場面において、私(あえて言えば時計界全体を代表して)はどう受け止めるべきか毎回迷ってしまう。もし“顧客は常に正しい”という論理が時計界にも当てはまるのであれば、今日、ノーチラスもロイヤル オークも、アクアノート、デイトナも、これほど記憶に残る存在とはなっていなかっただろう。いずれも登場当初は酷評されたり、発売当時にはまったく売れなかったりしたモデルばかりである。
そんなとき、HODINKEEの元編集者が引用していたジョン・アップダイク(John Updike)の“神様は手紙の返事を書かないものだ(God does not answer letters)”という言葉を思い出す。

ランドドゥエラーは、ロレックスが築き上げてきたアイコン的モデルの系譜に新たに加わる1本となった。そしてもし関税をめぐる問題が話題をさらっていなかったとしても、このモデルこそがWatches & Wonders 2025の主役であったことは間違いない。多くの来場者、さらには遠く離れた愛好家たちからしても、今年どころか過去数年においてもっとも“実際に手に取り、試してみたい”と強く望まれ、期待されたモデルであっただろう。私を含むHODINKEEチームも、ロレックスの“ブース”、実際にはブランドロゴに覆われ、フルーテッドベゼルを想起させる壁面が配された会場内の巨大な建造物といった趣だが、そこに入るときには興奮と緊張が入り混じった気持ちだった。そしてロレックスの担当者たちは、前置きもそこそこに紹介を開始した。最初に姿を現したのは、40mm径のステンレススティール製ランドドゥエラーだった。

大会議室のようなテーブルに着席し、数日間にわたって特許出願書類や確認できた情報を読み漁ってきたランドドゥエラーが、ちょうど反対側の端から回され始めた。私の前に届くのは最後になる。そのあいだ私は黙って観察し、耳を傾けることにした。最初はほとんど言葉が交わされなかった。こうした場では、それが常である。誰もが、たとえおしゃべり好きで知られるタンタンでさえ、まずは腕時計をじっくりと手に取り、手首に載せて確かめたうえで、「すごい」や「美しい」といった第一声以上の言葉を見つけるには少し時間がかかる。同席した仲間たちの表情や所作を見て、彼らが思い描いていたランドドゥエラーのイメージとは、実物が少なからず異なっていたことが伝わってきた。

写真、特にロレックスの公式ビジュアルではまず文字盤に目を奪われ、そこから目が離せなくなる。フェムトレーザーによって刻まれたハニカムパターンや、“6”と“9”のアラビア数字。この“顔”の印象があまりに強いのだ。だが実際に手に取ると、ランドドゥエラーの魅力は文字盤だけではなく、むしろロレックスがこれまで築いてきた伝統的な文法を静かに覆すような意外性が細部にまで宿っている。Ref.1530に着想を得た新しいケース形状は、現代ロレックスらしい仕上げと構造美によって極めて新鮮な印象を放っている。薄く、手首に沿ってしっかりとフィットし、つけ心地も快適だ。同じく新設計のフラットジュビリーブレスレットは、従来よりも鏡面仕上げの面積が明らかに少なく、その名のとおりフラットな印象を与える。スケルトン仕様のケースバック、その奥に見えるムーブメント、クラウンが刻まれたクラスプ。目に入るものすべてが、これまでのロレックス像に一石を投じるかのように鮮烈である。

A Rolex Land-Dweller in steel
ベンの手首に収まる、40mmケースのランドゥエラー。

A Rolex Land-Dweller in steel
このケースのポリッシュ仕上げを見てくれ!

A Rolex Land-Dweller in platinum
そう、これがプラチナである。

黒のチョークストライプのスーツとややきつめの白いカフのあいだに、ランドドゥエラーは難なく収まった。自分でも気づかぬうちに、袖のなかへと時計を滑り込ませたり、また引き出したりを繰り返していた。現代のロレックスでこうした体験をしたのは、1908を除いてこれが初めてだった。そしてほんの一瞬、私は心を奪われていた。その薄さに驚きながらも、本当に40mm径なのかを2度確認した。確かに40mmだったが、装着感は38mm径のように感じられた。ヴィンテージのRef.1016 エクスプローラーを好む自分としては、36mm径がラインナップにあることを知って喜んだが、実際にはこの40mmモデルに圧倒的な魅力を感じていた。ケースとブレスレットの設計はまさに完璧だった。小径時計を好む自分でさえ、大きめで汎用性の高いこのサイズを選びたくなるほどに。

そして、ようやく文字盤に目が向いた。思ったよりも時間がかかったが、気がつけば肘を曲げ、顎を襟元に乗せた姿勢でじっと見入っていた。頭のなかでは、次々と感想が浮かんでいた。「やっぱり白文字盤にはあまり引かれないな。プラチナのほうはどうだ?」、「あわよくば、黒文字盤も出してくれないだろうか」、「6と9の数字は思ったほど目立たないな。将来的には省かれるかもしれない」。私は自分の腕にある時計を、特にその文字盤について、頭のなかで編集しようとしていた。そしてその瞬間、はっきりと気づかされた。“神様は手紙の返事を書かないものだ”というあの言葉の意味を。

A Rolex Land-Dweller in steel
ランドゥエラーにおいて唯一、誰もが納得しているとは言いがたい部分。それがダイヤルである。

A Rolex Land-Dweller in platinum
プラチナ

A Rolex Land-Dweller in Everose gold
エバーローズゴールド

ふと思う。1972年のオーデマ ピゲのブースでロイヤル オークを目の前にした当時のリッチ・フォードン(私だ)は、頭のなかでどんな“修正”を加えたのだろうと。プチタペストリーは、彼にとって過剰に映っただろうか? あるいは、1997年のパテック フィリップのブースでRef.5060 アクアノートに対して、「アラビア数字か夜光の大型インデックス、どちらか一方にすべきだったのでは?」と考えたかもしれない。

ランドドゥエラーのCal.7135についてIntroducingで記事を書いたときは興奮を抑えられなかった。そしてケースやブレスレットへの深い愛、それも間違いなく本物だった。だが実際に手にすると、文字盤は自分の望んでいたものとは少し違っていた。とはいえ私は気難しく、移り気な時計愛好家にすぎない。もし友人がこの文字盤を気に入って「どう思う?」と聞いてきたら、私は間違いなく全力で背中を押すだろう。ムーブメントの性能やヴィンテージに通じるデザインの系譜について、相手が口を開く前にまくし立ててしまうに違いない。

マークならこんな写真も撮れてしまう。

価格についても触れておこう。ここで紹介している40mm径のステンレススティール製ランドドゥエラーは、225万5000円(税込)。36mmモデルは211万5300円(税込)に設定されている。クラシックラインにおける位置づけとして、ロレックスの最新作である本モデルは、貴金属のみで展開されるデイデイト(639万3200円〜)より下位に、ステンレススティール製のスカイドゥエラー(244万2000円)よりも下、そしてステンレススティール製のデイトジャスト41(160万2700円)より上に位置している。こつまり、ごく自然なかたちでカタログ内に収まる、見事な価格設定がなされているわけだ。ムーブメントの技術と明確に差別化されたデザインを考えれば、デイトジャストに対して約60万円の価格差は妥当であると私は考える。この差額を高いと感じる向きもあるかもしれないが、たとえばオイスターブレスレット単体であっても、中古市場では4000ドル(日本円で約60万円)で取引されていることを思えば納得がいくはずだ。

2012年に登場したスカイドゥエラーは、発売当初こそ非常によく売れた。時期によっては、正規販売店で最も入手困難なロレックスとされ、定価以上で取引されることも珍しくなかった。それがまだ“普通”ではなかった時代に、である。しかし年月が経つにつれ、ロレックスで最も複雑なこのモデルは、たとえその重要性が変わらなかったとしてもいまやカタログのなかで“頼めば出てくる数少ないモデル”のひとつとなってしまった。ロレックスというブランドは、少しずつ改良を重ねることで進化を遂げていく。その意味で、プロフェッショナルやクラシックといった象徴的なモデル群から逸脱した完全な新作を出すことは、ロレックスにとって容易ではない。発表時には熱狂が巻き起こるものの、そののち徐々に熱は冷めていく。これまで何度か繰り返されてきた構図だ。ランドゥエラーがこの流れのなかでどう位置づけられるのか。その答えが出るには、まだ時間が必要だ。10年後にまた聞いて欲しい。
https://www.jpan007.com/brands-category-b-1.html
ランドドゥエラーは、“ロレックスがロレックスたるゆえん”を体現する時計である。現代的なトレンドを押さえつつ、数十年前のリファレンスに根ざし、他ブランドとは明確に一線を画す存在だ。新たに搭載されたダイナパルス エスケープメントは、完全自社開発による工業的量産化という点においてロレックスにしか実現できない技術であり、機械式時計業界全体を精度と技術革新の新時代へと押し上げる可能性を秘めている。この時計が象徴するのは毎年4月、世界中の時計愛好家たちがパレクスポに注目する理由そのものだ。それがシルクの布であれ、世界的テニスプレーヤーのSNSであれ、ロレックスが次にどんな時計を発表するのか。その一挙手一投足が、時計界を動かしているのだ。そしてそれは、あなたの、そう、時計で確かめることができる。

今年登場した大人気モデルM.A.D.1の続編には、

時計業界を席巻したオリジナルのM.A.D.1から初めて本格的なデザイン変更を遂げたモデルであった。もっともそれは完全な刷新というより洗練を加えた進化だったとはいえ、多くの人々にとってこの変化は時計で得られる体験そのものを一変させるものだった。そしてこのモデルにまつわる話題のなかでひっそりと告げられていたのが、数カ月以内にブランドの次なるマイルストーンが登場するという予告——そう、M.A.D.2である。MB&Fから派生した独立系ブランド、M.A.D. エディションズは自らを“出版社”と称し、ひとつの大きな謎めいたブランドではなくデザイナーやアイデアに帰属するエディションを展開している点が特徴だ。MB&Fの創業者マキシミリアン・ブッサー(Max Büsser)氏の名がM.A.D.1およびM.A.D.1Sに冠されたことで、人々はM.A.D.を純粋な時計製造という意味では比べようもないにせよ、MB&Fのエッセンスを極めて手の届きやすい価格帯で体現した“ミニMB&Fマシン”と受け取った。

そして今回、ついにM.A.D.の新たな刺客としてM.A.D.2が登場した。手がけたのはエリック・ジルー(Eric Giroud)氏。彼は20年以上にわたりMB&Fのデザインに携わっており、ハリー・ウィンストン在籍時代にブッサー氏と出会ったことがきっかけで関係が始まった。今回、より手の届く価格帯で自身を投影するモデルを白紙の状態から任されたのは、ごく自然な流れといえよう。MB&F以前のジルー氏は“Erico”で知られていた。彼がこのモデルに込めたインスピレーションは、1990年代にローザンヌのDJシーンで過ごした時間に由来するという。その影響は本作にはっきりと表れており、彼の人生の旅がこの時計でひとつの円環を成す。まさに文字どおり“円”を描くのだ。

ダイヤルはターンテーブルを模したふたつのディスクからなり、散りばめられた数字と水滴型(あるいはギターピックのようにも見える)のインジケーターが時と分を指し示す。その下にはメインとなる大きなダイヤルプレートがあり、そこにはアナログレコードのような溝が刻まれている。この溝が光を反射し、ダイヤル全体に視覚的なアクセントを加え、ウブロ コピー時刻表示部に自然と目がいくような構造となっている。

時刻表示についてこのM.A.D.2で新たに注目すべき点は、ふたつのディスクが単なる針の代わりではなく、“ジャンピングアワー”と“ドラッギングミニッツ”という複雑機構の一部を担っていることである。これは価格帯を超えた時計製造としての価値を与えている要素だ。ミニッツディスクは1時間をかけてゆっくりと回転し、左側のディスクは次の時間が近づくと瞬時に切り替わる。ジャンピングアワーの動作は60分に1回のみで、ごく控えめではあるが、左側のポインターに現在の時刻がぴたりと合うことで時刻の読み取りが非常にわかりやすくなる。もちろん、M.A.D.1と同様に分単位の正確な時刻までは把握できない。それでもこの時計を身につけて過ごしていると、なんとなくの感覚で時刻を言い当ててからスマートフォンで確認するという遊びを繰り返すようになり、その誤差はたいてい1〜2分以内に収まっていた。そう考えるとデザインとしては十分に楽しめるクオリティといえる。

このコンプリケーションは、MB&Fチームが自社開発した新しいジャンピングアワーモジュールによるものである。双方向に操作可能な設計となっており、時刻合わせの際に針を逆回しにしても、時間が正しく逆戻りする。モジュールを駆動するのは、ラ・ジュー・ペレ製のCal.G101。これはアップグレード版のM.A.D.1Sにも搭載されたムーブメントであり、64時間のパワーリザーブを持つ。先代のミヨタムーブメントを搭載していたやや厚みのあるM.A.D.1と比べて、仕上げの美しさが明らかに向上しており、しかもスイス製である。M.A.D.1Sとは異なり、キャリバーおよびローター(ブランドによれば、Technics SL-1200ターンテーブルの縁からインスピレーションを得たもの)は文字盤の下によく見られる配置で収められている。ただし42mm径のスティールケースはインナーダイヤルとベゼルのあいだに空間を設けており、そこからローターを覗き込むことが可能となっている。さらに夜光を充填したドット状のピンが配置されており、ローターが高速回転すると、光の軌跡のような遊び心のある演出が楽しめる。愛さずにはいられない仕様だ。

このM.A.D.2は直径42mm、高さ12.3mmのステンレススティール製ケースに収められており、滑らかで小石のようなフォルムが特徴だ。メインダイヤルの周囲にスペースを設け、内部のローターが見える構造のために手首に乗せた際のサイズ感としては決して小さくはない。装着感はM.A.D.1Sとはまったく異なる。一般にケースが薄くて直径が大きい時計は“ディナープレートのような印象”を与えることがあるが、このM.A.D.2にもその傾向は若干見られる。それでも1週間ほど実際に着用してみた限りでは、それが気になることは1度もなかった。ストラップにはカーフスキンが使われており、SS製のフォールディングバックルが装着されている。時計本体や全体のパッケージ同様、ティアドロップ(もしくは宇宙人、ギターピック)型のモチーフが随所にあしらわれているのも印象的だ。

そして何より大きな発見は、初代M.A.D. エディションと異なりこのM.A.D.2は普通の時計としてつけられるという点である。多くの人にとって、これはM.A.D. エディションというブランドの意味を大きく変える出来事だろう。正直なところ最初にこの新作の画像を見たとき、自分のなかには少し戸惑いがあった。初代モデルの大ファンである自分としては、M.A.D.1Sを装着した際に感じるMB&Fのほかのオロロジカル・マシン同様のスペースエイジ的インスピレーションに心引かれていたからだ。面取り、ケース構造、そのすべてがほかのブランドには思いつかないようなものであり、それこそが魅力だった。しかし、いま振り返ると、自分はM.A.D.というレーベルの精神を本当には理解していなかったように思う。自分のなかではあのデザイン言語が今後も続くのだと決めつけ、勝手に期待を固めていたのだ。しかし数日間M.A.D.2を身につけて過ごしたことで、ようやくその真意をつかんだ気がする。

あの最初の戸惑いこそが、多くの人々がM.A.D.2の登場に熱狂した理由なのだろう。数々のバリエーションを重ねた初代を経て、ついにこのスピンオフブランドが“遊び心ある時計づくり”という精神を受け継ぎながらも、より親しみやすく日常使いしやすい理想的な形を実現したと言える。ジルー氏によるこの新作は初代よりもぐっと抑制が効いており、アプローチは異なれど楽しさという点では変わらない。多くの人にとって、日々に取り入れやすい1本になるはずだ。さらにジャンピングアワーという複雑機構が加わったことで、「その時計、何?」と聞かれたときにちょっとしたストーリーを語れるという楽しみも増える。

なお、MB&Fオーナー限定の“MB&F Tribe”向けバージョンとしてオレンジダイヤルのモデルが用意されている(残念ながら、M.A.D.1の所有者は対象外)。一般向けの抽選販売ではグリーンダイヤルのモデルが登場する予定だが、こちらは実物を見る機会がなかったのが惜しまれる。初回ロットはおよそ2000本とされているが、ブランド側は「限定モデルではない」と明言しており、今後も追加生産が予定されているようだ。価格は2900スイスフラン(日本円で約49万円)。新開発の双方向ジャンピングアワーモジュールを搭載していることを考えれば、非常に良心的な設定といえる。