夢の城

― 登場人物 ―


晴れた春の宵

主要登場人物

池原弦三郎(げんざぶろう)
 若い武士。若くはあるけれど、玉井三郡の一つ竹井郡の池原郷の名主である。この物語の始まる前の年、村が出水で大きな被害を受けたため、年貢その他の減免などの陳情のために玉井の町に出てきて、評定衆(ひょうじょうしゅう)筆頭の小森健嘉(たけよし)に働きかけているのだが、なかなかよい返事がもらえないでいる。浅梨治繁(あさりはるしげ)に弟子入りしているのは、小森健嘉に浅梨屋敷に不穏な動きがないかどうかを内偵して報告するためである。しかし、弟子入りしたとたんに勝ち気な姉弟子の藤野の美那に殴りつけられる(しかも助けてやったにもかかわらず...)という災難に遭遇する。[あばれ馬]
小森健嘉(たけよし)式部大夫(しきぶだゆう)
 評定衆(ひょうじょうしゅう)筆頭。春野越後守(えちごのかみ)定範(さだのり)が守護代に就任して以来、ずっと家臣のまとめ役となって定範を支えてきた。弦三郎に浅梨屋敷の内情を内偵させるかわりに、その生活を支えてやっている。
野嶋(のじま)当四郎(とうしろう)
 市場で賭け事で生計を立てている博奕(ばくち)打ちの男。竹井郡の野嶋郷の名主の息子で、池原弦三郎の母親の妹の息子で従弟にあたる。以前は武士として勤めていたらしいが、何か事情があって武士をやめ、博奕打ちになったらしい。郷里からは武士に戻るよう説得されている。

話題としてのみ登場する人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。弦三郎と同じ浅梨治繁の弟子なので、弦三郎にとっては姉弟子にあたる。市場の葛餅屋「藤野屋」に養女として住んでいる娘。気が強いのか、粗雑なのか、入門したての弦三郎を殴りつけた[あばれ馬]。前の章まで出づっぱりだったが、この章には出てこない。
春野正稔(まさとし)、(幼名)信千代(のぶちよ)
 春野正勝の嫡男。那世(なよ)深雪(みゆき)の方)という姉と、美那という妹がいる。まだ幼いうちに父 正勝 を喪い、元服して守護代となった。しかし、まもなく、叔父の越後守定範によって守護代の地位を追われ、沖合の笹雪(ささゆき)島に流された。のちに殺害されたと伝えられている。
美那姫、春野家の妹姫
 正稔の妹。まだ幼いころに定範によって姉・兄と引き離され、城館に住まわせられていたところを柴山康豊(やすとよ)に妻にと望まれ、小森健嘉が説得にあたった。庭で遊んでいてあやまって古井戸に転落して死亡したとされる。自害であった可能性もある。三郡の人びとのあいだには、もしかしてこの妹姫が生存しているのではないかと思っている人も多い。それは、一面では、美那を含めて自分の姪・甥を死に追いやった現在の守護代定範への非難の裏返しなのかも知れない。
柴山康豊(しばやまやすとよ)兵部少輔(ひょうぶのしょうゆう)
 玉井から白麦峠・村井峠などを越えた向こうの山間部 巣山(すやま)郡 の代官。柴山家は古くから巣山郡の支配者で、康豊の祖父の代に玉井春野家初代の正興に服従した。康豊は、兄の突然の死去によって若くして代官の地位を手にし、同じように若くして守護代の地位を嗣いだ春野正稔を攻撃したが、撃ち破られた。その正稔が定範に追放されて以来、定範に服従している。
浅梨治繁(あさりはるしげ)左兵衛尉(さひょうえのじょう)
 春野家の老臣だが、いまは屋敷町のいちばんはずれの屋敷に隠居している。美那や池原弦三郎の剣術の師。定範への出仕を拒否した反体制派なので、小森健嘉ら定範の臣下には警戒されている。
春野定範(さだのり)越後守(えちごのかみ)
 玉井三郡の守護代。小森健嘉にとっても、また池原弦三郎にとっても主君にあたる。
柿原忠佑(かきはらただすけ)大和守(やまとのかみ)、入道
 春野定範の正妻 千草(田山の方) の父で、定範の岳父にあたる。三郡の一つ竹井郡の柿原郷の名主の出身。その立場から定範に強い影響力を持っている。竹井郡の金貸しとの関係が強い。