夢の城

― 登場人物 ―


安濃詣で(三)

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。植山平五郎の案内役として、三郡の鎮守社の安濃社に来ている。
駒鳥屋のあざみ
 美那の隣の商家 駒鳥屋 の一人娘。美那と同い年らしく、仲がよい。美那といっしょに平五郎の案内役をしている。どうやら勝ち気で粗雑なところのある美那が暴発しないようにという桧山桃丸と薫の配慮らしい。
桧山桃丸(ひやまももまる)
 港の近くに屋敷を持ち、事実上、港の監督を担当している名主。美那より少し歳上のようだ。薫と昔から知り合いで、美那のことを気にかけている。
藤野屋の(かおる)
 市場の葛餅屋「藤野屋」を一人で経営している女で、美那の養い親。桃丸とは昔からの知り合いらしい。
榎谷(えのきだに)の志穂
 魚売りの娘。以前、美那が中原村で地侍(小地主 兼 武士)に絡まれて困っているところを助けた[春の朝]。榎谷は安濃社の領地で、その関係で社に働きに来ているらしい。
春野定範(さだのり)越後守(えちごのかみ)
 現在の三郡守護代。玉井春野家初代 春野正興の次男。市場の人たちからは嫌われているが、本人は温厚そうな初老の男のようだ。
植山平五郎
 唐国(明)の天津に本拠を置く商人の持ち船「千歳丸」の船頭(船長)。桧山桃丸の客として港に滞在しており、桃丸の勧めで安濃社に参詣に来ている。
杉山信惟(のぶただ)左馬允(さまのじょう)
 春野家の老臣で、評定衆の一人。定範に仕えている。
杉山宣十郎(せんじゅうろう)
 信惟の息子。一本気でまじめな少年武士のようだ。
安濃社の宮司
 名まえはわからない。相当に年を取っているようであるが、しっかりした老人で、三郡のことをいろいろと知っているらしい。美那とは以前から知り合いのようである。
襟花(えりか)
 定範の愛妾らしい。まだ幼さの抜けない少女だが、歳はだいたい美那と同じぐらいである。そのほかのことはまだわからない。

話題としてのみ登場する人物

あざみの父
 駒鳥屋の主人。年の大半を藍や布の買いつけに他国に出かけて過ごしている。
あざみの母(およし)
 駒鳥屋の店を実質的に経営している。薫と仲がよく、薫や美那のことをいつも気にかけている。
隆文(たかふみ)(鍋屋の〜)、車屋の丈治(たけはる)(車屋の〜)元資(もとすけ)(銭屋の〜)
 いずれも浅梨治繁の弟子で美那と同門。
浅梨治繁(あさりはるしげ)左兵衛尉(さひょうえのじょう)、「浅梨さま」
 藤野の美那の剣術の師。もと春野家の老臣であった関係からか、桧山桃丸もよく知っているらしい。
桃丸の父、牧野父子
 定範が兄正勝(まさかつ)の子 正稔(まさとし) を放逐したときに、桃丸の父桧山興孝(おきたか)と、牧野・森沢の名主だった牧野興治(おきはる)が定範の横暴に対して決起した。これが牧野の乱(定範から見て「乱」であって、定範に不満を持つ人たちは「義挙」という)で、桧山興孝・牧野興治と興治の息子芹丸(せりまる)は敗れて殺された。
(藤野の)美那の兄
 美那がうたた寝して、そのときに見た夢のなかに出てきた。美那は兄や父や祖父や姉といっしょに暮らしていたことがあるらしい。もちろん夢のなかのことだからほんとうかどうかはわからないが……。
中原村の地侍
 玉井の町のすぐ北に隣接する中原村に住む零細地主 兼 武士で、水を汲みに来た美那に言いがかりをつけたが、志穂に撃退された。[春の朝]
春野正稔(まさとし)信千代丸(のぶちよまる)(幼名)
 玉井春野家第二代正勝(まさかつ)の子。正勝が亡くなった後、守護代の地位を嗣いだが、その地位を定範に奪われ、笹雪(ささゆき)島に流された。島で島民の争いに巻きこまれて死んだという。
那世(なよ)深雪(みゆき)の方、春野家の姉姫
 正稔の姉。すでに結婚していたが、正稔とともに捕らえられて同じく笹雪島に流された。
美那、春野家の妹姫
 那世と正稔の妹。定範が守護代となってからも、姉・兄と違って島流しにはされず、城館に軟禁されていた。定範に味方して牧野の乱を鎮圧した巣山の代官 柴山康豊の妻になるように言われたあと、井戸に落ちて死んだという。自害したとも言われている。