夢の城

清瀬 六朗


初めてお読みくださる方へ

 この「夢の城」は私が1992年10月に書き始めた小説です。もう10年も前ですね。「清瀬六朗」といういまの筆名を使い始めて最初に書いたのはヴェルヌの小説の翻案ものでした(その事情は L'etonnante aventure のページに書きました)。その次に書きはじめたのがこの物語という順番になります。ちなみに清瀬名義での三作めは『赤ずきんチャチャ』をベースにした小説「鳥占い」でした。

 ところが、この「夢の城」(当時は少し違うタイトルでしたが)は、1995年ごろに執筆作業を終わらせないまま筆を擱いてしまい、ずっとそのままになっていました。理由はいまはもうはっきりとは覚えていません。一つの理由は、この時期に『赤ずきんチャチャ』に強く興味をひかれはじめ、そのあと『新世紀エヴァンゲリオン』の放送などもあって、私の興味が大きく変わってしまったことだったと思います。この時期からコミックマーケットに出す同人誌作りに関わるようにもなり、そちらに時間をとられてしまったということもあります。

 しかし、それより大きな理由は作業環境の変化だったでしょう。この小説は、エプソン版MS-DOSの上で書き、1.2MBフォーマットのフロッピーに保存して書き進めていました。ところがちょうどこの物語を執筆している途中にWindows3.1に移行したのです。そうなると、フロッピーからいちいち読み出すという作業が面倒に思え、しかもWindowsの動かしかたに慣れていなかっただけになおさら億劫で、そのうちにいつの間にかこの物語を書きつづけるのをやめてしまったのではないかと思います。

 考えてみれば、当時はWindows95ですらなかったんだよなぁ……ふぅ……。考えてみれば、この小説を書き始めたころは、電子メールも読まなかったし、書かなかったし、インターネットでいろいろなページを閲覧するなんてこともやってなかったんですよね。「インターネットで調べもの」なんて考えもしなかったし、それ以上に、インターネットに自分のホームページを開くなどということは想像することもできませんでした。

 今回、その未完の旧作に修訂の手を加え、一部分を書き足して、その想像もできなかった自分のホームページ上で発表することにしました。

 このお話は、戦国ものの時代小説ですが、架空の土地を舞台にした、まるっきり架空の物語です。だから、歴史上、著名な人物は一人も登場しません。というより、実在の人物はほとんど出て来ません。

 実在の舞台や実在の人物を避けたのは、もし戦国時代を舞台にする小説を実際の歴史に即して書こうとすると、史料集めやその読解など、私には歯が立たないことが多いからです。いや、歯が立たないということはもちろんあるのですが、いちいち史料にあたりながら書くのが億劫だったというほうがあたっているかも知れません。

 ですから、この物語では、この時代っぽいことばやしきたりは出てきますけれど、時代考証はほとんど行っていません。それどころかどう考えても時代考証上おかしい話がいくつも出てきます。本を何冊か読みかじって、この時代に使われていたようなことばや、この時代の社会的な仕組みを拾い出し、それを適当につなぎ合わせて勝手に組み上げたのがこの物語の世界です。ですから、申しわけありませんが、これは時代考証の非常にいい加減な作品なんだと割り切って、時代考証のおかしな点は気にせず読みすすめてくださいますようお願いします。

 登場人物が非常に多い作品なので、登場人物については各章ごとに説明を入れてあります。よかったらご参照ください。

 10年も放置してきた登場人物たちには、まず放置してきたことをお詫びしたいと思います。そのうえで、今度こそ、この物語のなかでのそれぞれ一人ひとりの物語の結末に無事に到着してほしいと願っています。

 けっこう長い旅路になると思いますが、読者のみなさまにもなにとぞよろしくおつきあいくださいますようお願い申し上げます。

2003年9月2日   
清瀬 六朗