ファンタジックなサイケ・フォーク |
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イギリスのアリス・スルー・ザ・ルッキング・グラス(Alice Through the Looking
Glass)という人たちが、『ALICE THROUGH THE LOOKING GLASS』というアルバムを出している。音を聴いてみると、サイケデリック・フォーク。どうにも気になる。
アリス・スルー・ザ・ルッキング・グラスのメンバーは、ピーター・ハウエル(PETER HOWELL)とジョン・フェルディナンド(JOHN
FERDINANDO)のふたり。彼らはアリス以外に、1970年にトゥモロウ・カム・サムデイ(TOMORROW COME
SOMEDAY)、エイジンコート(AGINCOURT)、1972年にはイサカ(ITHACA)として活動している。
このアルバムは1969年につくられた自主制作盤で、当時プレスされた枚数はごくわずかだったそう。わたしが入手したレコードは、1997年に再発された1000枚限定のうちの1枚。ボールペンの手書きナンバーが泣かせます。
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ALICE
THROUGH THE LOOKING GLASS『ALICE THROUGH THE LOOKING GLASS』
TENTH PLANET TP032
U.K. |
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【SIDE ONE】 |
【SIDE TWO】 |
1. THE ALICE THEME |
1. DUM AND DEE |
2. THE MARCH OF THE CHESSMEN |
2. THE WALRUS AND THE CARPENTER |
3. JABBERWOCKY |
3. ALICE MEETS THE KNIGHTS |
4. DANCE OF THE TALKING FLOWERS |
4. A-SITTING ON A GATE |
5. ALICE'S TRAIN JOURNEY |
5. HER MAJESTY QUEEN ALICE |
6. THROUGH LOOKING GLASS WOOD |
6. WHOSE DREAM? |
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タイトルからもわかる通り、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』がコンセプト。全体的に牧歌的なファンタジー色が強いが、音響効果でサイケデリックな世界をつくりあげている。曲名を追ってみると、アリスのテーマ〜チェスのマーチから始まり、夢から醒めたアリスの「夢を見たのは誰か?」という問いかけまで、原作のストーリーに沿ってつくられているのがわかる。物語に登場するノンセンス詩をモチーフにしているのが3曲。曲の途中や曲間にアリスや登場人物のお芝居、観客の笑い声や咳払いなんかが入っている。これは“Ditchling
Players”と呼ばれる地元のアマチュア演劇グループのミュージカル「アリス・スルー・ザ・ルッキング・グラス」から。
ジャケットは、アリスが森の中でトゥイードルダムとトゥイードルディーに出会ったシーン。緑の木々や花々が笑いながらアリスたちを見ている。きのこも見ている。『鏡の国』では花も虫もしゃべるし、ジョン・テニエルの挿絵でも時計や花瓶が人の顔をしている。このジャケのイラストも、アリスとダムとディーはテニエルのイラストを用いているようだ。アリスたちの前をトランプのカードたちが行進している。細かいことをいうと、トランプが出てくるのは『不思議の国のアリス』なんだけどね。どうせならここはチェスの駒にするべきだったのでは?
それはともかく、すごくよいアルバムなのだ、これは。音楽としても、アリスとしても。では、「アリス」物語のシーンを絡めながら曲紹介をしていきます。グダグダ説明したところで音聴けば一発なんだけど…。 |
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【SIDE ONE】 |
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1曲目の「ジ・アリス・テーマ」は、フルートの音色がすがすがしく、爽やかな朝といったイメージ。原作は雪の降る寒い冬の日、暖炉の火で暖かな部屋の中から始まったわけだけど、それはそれってことで。 |
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アリスの声が挟まり、2曲目。ツッタカタッ、ツッタカタッと、軽快なマーチング・バンドっぽく太鼓の音で始まる「ザ・マーチ・オブ・ザ・チェスメン」。アリスが鏡を通り抜けて見たものは、チェスの駒たちが二つ一組になってそこらじゅうを歩き回っている姿だった。 |
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そして、3曲目。アリスが手にとった一冊の本、鏡文字で書かれたノンセンス詩「ジャバウォッキー」。この曲の歌詞はキャロルの詩そのままなのだ。この詩の1小節目“'Twas
brilling, and the slithy toves 〜 And the mome raths outgrabe.”の朗読から始まり、2小節目“Beware
the Jabberwock, 〜”から4小節目“〜 And burbled as it came!”までがフォーク調の歌。5小節目の“One,
two! One, two! 〜 He went galumphing back.”は声を歪ませた朗読。ドラムの音が低く気持ちよく響き、そして6小節目“And,
has thou slain the Jabberwock? 〜 He chortled in his joy.”までまたフォーク調の歌。ラストはバックの音をウニウニさせながらの朗読“'Twas
brillig, and the slithy toves 〜 And the mome raths outgrabe.”で締め。これぞ、サイケ・フォーク!!! |
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一転して、小鳥のさえずりと爽やかな音楽で始まる4曲目「ダンス・オブ・ザ・トーキング・フラワー」。庭に出たアリスが遭遇するおしゃべりする花のシーンより。そこへ赤の女王が登場。ここからは、アリスと赤の女王の会話が続く。女王とアリスが駆け出す。「早く!もっと早く!」。ところどころに観客(?)の笑い声が入る。で、小川を飛び越えると…。 |
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シュッシュッシュッシュッと汽車の音で5曲目「アリスズ・トレイン・ジャーニー」。アコースティック・ギターがやさしい。またここでも会話が入り、観客の咳払いなんかも。 |
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小鳥のさえずりとともに森の中へ。安らぎをを感じる6曲目「スルー・ルッキング・グラス・ウッド」。 |
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【SIDE TWO】 |
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レコードをひっくり返すと元気で愛らしいサウンドが。1曲目「ダム・アンド・ディー」でトゥイードルダムとトゥイードルディーの登場だ。原作からの三人のセリフとマザーグース「トゥイードルダムとトウィードルディー」のコーラス。そして、彼らがアリスに長い詩を聴かせてあげようと言って… |
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波の音がザザーッザザーッ。2曲目「ザ・ウォルラス・アンド・ザ・カーペンター」の詩と歌へ。ここではキャロルの詩から抜粋したものが歌詞になっている。冒頭1小節目が朗読。次に、4小節目“The
Walrus and the Carpenter〜”の歌、嘆きが入り、6小節目“'O Oysters, come
and walk with us!'〜”、11小節目“'The time has come', the Walrus
said,〜”、13小節目“'A loaf of bread', the Walrus said,〜”を歌詞に歌が続き、カモメが鳴いて波の音がして、ラストの“'O
Oysters,' said the Carpenter,〜”でエンド。滑稽な可笑しさがにじみ出ている曲。ホントにトゥイードルディーが歌ってくれてるような気になる。 |
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馬の蹄と啼き声とともに3曲目「アリス・ミーツ・ザ・ナイツ」。ドラムのドコドコドコドコ…、シンバルのシャーンシャーンシャーン、チン!と、ドリフのようなずっこけ(当然、観客の笑い声アリ)が、珍発明家である白の騎士登場にふさわしくてイイ。 |
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そして、白の騎士がアリスのために歌ってくれる「ア・シッティング・オン・ア・ゲイト」4曲目。これもキャロルの詩がそのまま歌詞として歌われている。スバラシイ! 聴き終わった後、スピーカーの前でひとり拍手してました。原作のあの光景――「騎士のおとなしい青い眼、そしてやさしい微笑み――夕日がその髪ごしにきらきら透けて、鎧にあたって目も眩みそうにぎらっとかがやいたこと――首のまわりにだらりと手綱をたれたまま、足もとの草をたべたべ静かに歩きまわっている馬――背景には黒い森影」(新潮文庫/矢川澄子氏訳より引用)を想い描いて切なくなった。淡々とした歌声もよくて。 |
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女王アリスの5曲目「ハー・マジェスティ・クィーン・アリス」。パーティでは、マトンやプディングに紹介されて食事にありつけないアリス。パーティはもうめちゃくちゃ。この混乱の原因はこいつとばかりに、アリスは小さくなった赤の女王を揺さぶって…。 |
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夢から目覚めたアリス…6曲目「フーズ・ドリーム?」。果たして夢を見ていたのは、赤の王かアリス自身か? 夢の余韻にひたっていると、切なく美しい歌が流れ出す。『鏡の国のアリス』の巻末を飾る一篇の詩、あの「アリス」の物語が生まれた“金色の昼下がり”を詠んだ詩をのせて。オリジナルのキャロルの詩はアクロスティックになっていて、各行の頭の一字を読んでいくと「ALICE
PLEASANCE LIDDELL」となる。が、ここでの歌詞はキャロルの詩の抜粋で順序も変えてある。ということで、最後にその歌詞を記して締めくくり。
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Still
she haunts me, phantomwise,
Alice moving under skies
Never seen by waking eyes.
Long has paled that sunny sky:
Echoes fade and memories die:
Autumn frosts have slain July.
Children yet, the tale to hear,
Eager eye and willing ear,
Lovingly shall nestle near.
In a Wonderland they lie,
Dreaming as the days go by,
Dreaming as the summers die: |
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