Joachim Kühn は 旧東ドイツ (DDR, Deutsche Demokratische Republik) の ライプチヒ (Leipzig, SN, DE) 出身、 1966年のDDR亡命後は、主にパリ (Paris, FR) を拠点に free jazz に近い文脈で活動をしてきた piano 奏者だ。 ちなみに、Joachim Kühn 関連のレビュー: 1, 2。
そんな彼の新作は、モロッコ (Morocco) の音楽 gnawa をバックグラウンドに持つ guembri 奏者 Majid Bekkas との共演盤だ。 さらに、スペイン (Spain) 出身ながら主にフランス (France) の jazz/improv シーンで活躍する Ramon Lopez が drums で参加している。 gnawa 風味で free 色も入った一癖ある jazz piano trio が楽しめる作品だ。
Kalimba を録音・制作した Walter Quintus は、 jazz/improv 文脈で活動するレバノン (Lebanon) の oud 奏者 Rabih Abou-Khalil の録音・制作でも知られる。 Rabih Abou-Khalil / Joachim Kühn, Journey To The Contre Of An Egg (ENJA (MW), ENJ-9479 2, 2005, CD) (レビュー) と音作りの面で共通点も感じられ、続編とも言えるかもしれない。 特に Bekkas が oud を弾く "Rabih's Delight" は、 タイトルからして Abou-Khalil を意識した曲だろう。
Kalimba と題されているが Bekkas が kalimba を主に弾いているのは "Kalimba Call" くらいだ。 やはり、最も印象に残るのは doublebass のように太く響く guembri の音だ。 gnawa と free jazz の共演は1960年代からいろいろ行われて耳に馴染んでいるせいか、 guembri の低音のせいか、Lopez の drums の音のせいか、 特に Kühn 作の曲をやっている時など、 普通の jazz piano trio のように聴こえるときもある。 それでも "White Widow" のような曲では guembri の音色と Kühn の華やかな piano の音色がアップテンポな展開で絡んで、 とてもカッコいい。 曲の後半では Kühn が alto sax も吹く10分余りと最も長い曲 "Sabbatique" では 音数少く間合いを生かした演奏から音数多いドシャメシャ演奏まで、 即興的でスリリングな3者の絡みが楽しめる。 明るい中にも憂いを感じる Kühn の伴奏で Bekkas が歌う "Dounia" は Dollar Brand (Abdullah Ibrahim) も連想させられる曲だ。
しかし、Bekkas の gnawa 的なゆったりめの反覆パターンと 時に blues 的にすら感じる詠唱に Kühn の印象派的にも感じるスパースなフレーズが絡む "Hamdouchi" が最も気に入ったトラックだ。 面子から予想される展開としてはこの曲が最もそれらしく、 そういう点で最も期待していたような曲ということもあるかもしれないが。