Tangerine Dream は、1967年に Edgar Froeze によって 西ベルリン (West-Berlin, DE) で結成された krautrock / electronic music のグループだ。 (ちなみに、Klaus Schulze、Ash Ra Tempel、Agitation Free など西ベルリンの krautrock のグループは "Berliner Schule" と呼ばれる。)
Nebulous Dawn は その Tangerine Dream の最初期の録音である Ohr レーベル時代の4枚のアルバムと1枚のシングルに さらに、Tangerine Dreams 以前に Froese がやっていたグループ The Ones のシングル音源を併せて CD3枚にまとめた box set だ。 Ohr レーベルに残した全音源が収録されて、新譜CD1タイトル程度の廉価となっており、 オリジナル・ジャケット等にこだわりが無ければとてもお得なアンソロジーだ。 (これとは別に、アルバム毎のCDリイシューも Castle / Sanctuary がしている。)
ここに収録されている音は Virgin 移籍後の sequencer を駆使した音 (Phaedra (Virgin, 1974) や Rubycon (Virgin, 1975)) とはかなり異なっている。 最初期の Klaus Schultze、 Conrad Schnitzler との trio 編成での Electronic Meditation など、 electric guitar を大きくフィーチャーした psychedelic で即興的要素も強い rock といった方が良いだろう。 時期が下るほど電子楽器を駆使して浮遊するような雰囲気が強くなってくるが、 ビート感のほとんど無いオーケストレーションという感じだ。 この1970年代半ばの完成された electronic music ではなく、 ドイツの krautrock に限らない1970年前後の underground な rock (関連発言: イギリス (UK)、 フランス (France)) と共通するような雰囲気が、このアンソロジーの魅力だ。
The Ones の2曲は soft で psychedelic だったり R&B 風だったりする rock で、 Froese にもこんな時代があったのかと興味深いが、それ以上のものではない。
最初にリリースされた時期やカタログ番号等のクレジットもジャケットにちゃんと記載されているし、 David Wells によるブックレット6頁分相当のライナーノーツは丁寧だが、 録音と参加ミュージシャンに関する情報がライナーノーツに書かれているだけで不十分だ。 廉価アンソロジーに求めるものではないかもしれないが、資料的な面で物足りないところだ。
Ohr はドイツの rock をリリースするために Rolf-Ulrich Kaiser (⇒ de.wikipedia.org) と Peter Meisel によって設立されたレーベルだ。 設立は1969年のようだが、リリースは1970年から。配給は Metronome だった。 その後、Keiser と Meisel は1971年に BASF 傘下に new folk (folk rock) のレーベル Pilz を設立、 1972年には Ohr 傘下のレーベルとして Metronome 配給で Kosmische Kuriere (aka Kosmische Musik) を設立した。 リリースしていた期間とリリースしたアルバムの数は Ohr が1970-74年にアルバム34タイトル、 Pilz が1971-1973年にアルバム20タイトルとシングル7タイトル、 Kosmische Musik が1972-1975年にアルバム18タイトルだ。 Keiser は LSD の問題もあり 1975年には音楽業界から足を洗ってしまった。
この Kaiser & Meisel による3つのレーベル (Ohr / Pilz / Kosmische Kuriere) の音源は、 フランスのレーベル Spalax (関連発言) などからもCD再発されてきたが、 現在はドイツのレーベル ZYX が権利を持ちその多くをCD化している (2004年版カタログ [PDF])。 ただし、権利の一部が散逸しているのか、 Amon Düül, Ash Ra Tempel, Tangerin Dream, Klaus Schulze といった有名所がごっそり抜けているのが少々残念だ。 (ちなみに、Tangerine Dream は上記のように Castle / Sanctuary から、 Klaus Schulze は Revisited / InsideOut から再発されている。) そんな ZYX からリイシューされている音源を一望するのに 便利なコンピレーションがこれだ。
Various Aritsts, Mitten Ins Ohr (Ohr, OMM2/56018, 1971, 2LP) のジャケットデザインとタイトルを流用しているが、そのCD化ではなく、 ZYX が再発している Ohr / Pilz / Kosmische Kuriere のアルバムの廉価サンプラー盤だ。 どのアルバムに収録された曲か程度のクレジットはあるが、 録音時期やリリース時期のクレジットも無ければ、 グループの解説も1〜3行程度の簡単なもの。 音質も、当時の録音の限界か、リマスタリングのせいか、良好とは言い難い。 廉価でなくて良いから、充実したブックレットと良いマスタリングで レーベルの活動を見通せるような3〜4枚組くらいのアンソロジーを編纂して欲しいとも思う。
このサンプラーを聴いていると、 後に krautrock の一典型となるような Guru Guru のような曲と同じくらい、 Witthüser & Westrupp や Hölderlin、Bröselmaschine のような folk rock 的な演奏が印象に残る。 ドイツの underground な rock の失われた可能性を聴くようでもああり、 このような folk rock がイギリスやフランスのように現在に繋がるように展開しなかった理由は何だったのだろうかとも思う。